基幹システム開発にラボ型開発が向いている理由|段階的に進める成功の鉄則

開発tips公開日:2026年6月13日最終更新日:2026年6月14日
徐 聖博
徐 聖博

株式会社シンシア 代表取締役社長

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  1. 基幹システム開発が難しい本当の理由
  2. 業務の深い理解なしに開発を始めるリスク
  3. 「重厚長大なシステム」が現場に定着しない問題
  4. 成功する基幹システム開発の考え方:大きく計画し、小さく動かす
  5. 事業の未来まで見据えた拡張性設計が不可欠な理由
  6. 段階的な機能追加がオンボーディングを成功させる
  7. ラボ型開発とは何か?基幹システムとの相性が良い理由
  8. ラボ型開発の基本的な仕組みと特徴
  9. 現場に寄り添いながら1ステップずつ積み上げられる強み
  10. スクラッチ開発・パッケージ導入との違い
  11. 基幹システム開発をラボ型で進める具体的なステップ
  12. Step1:業務理解と将来設計(グランドデザイン)
  13. Step2:最小限の機能から稼働開始(MVP構築)
  14. Step3:現場フィードバックをもとに機能を段階追加
  15. ラボ型開発パートナーを選ぶときのチェックポイント
  16. よくある質問(FAQ)
  17. ラボ型開発と受託開発(請負開発)の違いは何ですか?
  18. 基幹システムをラボ型開発で進めると、どのくらいの期間・コストがかかりますか?
  19. 段階的に開発すると、後から設計が崩れてしまうリスクはありませんか?
  20. 既存の基幹システムのリプレイスにもラボ型開発は使えますか?
  21. 現場の担当者がITに不慣れでも、ラボ型開発は機能しますか?
  22. ラボ型開発に向いている企業・向いていない企業はありますか?
  23. 関連記事

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基幹システムの開発・刷新プロジェクトは、なぜこれほど多くの企業で「思ったように使われない」「現場が混乱した」という結果に終わるのでしょうか。その根本的な原因は、要件を一度に固めて一気に作り上げる開発スタイルにあります。

結論から言えば、基幹システムの開発にはラボ型開発が向いています。業務の深い理解を積み重ねながら、段階的に機能を追加していくこのアプローチは、「大きく計画し、小さく実装する」という原則を体現しており、現場への定着率を高め、開発リスクを分散させることができます。この記事では、その理由と具体的な進め方を解説します。


基幹システム開発が難しい本当の理由

three men sitting while using laptops and watching man beside whiteboard

Photo by Austin Distel on Unsplash

業務の深い理解なしに開発を始めるリスク

基幹システムは、受発注・在庫・会計・人事など、企業の根幹をなす業務を支えるシステムです。その業務フローは、長年の現場の知恵や例外処理が積み重なった複雑なものです。

開発プロジェクトの初期段階で「要件定義書」を作成しても、それが実際の業務の全体像を正確に捉えられているケースは多くありません。現場の担当者自身が「自分たちの業務がどう動いているか」を言語化しきれていないことも珍しくないからです。

その状態のまま開発を進めると、完成したシステムが「書類上の業務フロー」には合っていても、「実際の現場の動き」とはズレてしまいます。結果として、現場が使いにくさを感じ、Excelや紙の帳票が併用され続けるという事態が生じます。

「重厚長大なシステム」が現場に定着しない問題

もう一つの落とし穴は、開発期間が長くなるほどシステムが「重厚」になりすぎることです。

要件定義から本番稼働まで1〜2年かかるプロジェクトでは、その間に事業環境や組織体制が変わることも珍しくありません。また、「せっかく作るなら」と機能を追加し続けた結果、画面数が膨大になり、現場担当者が操作を覚えるだけで精一杯になるケースもあります。

システムは稼働した瞬間から「使われてこそ価値を生む」ものです。どれだけ高機能でも、現場に定着しなければ投資対効果は得られません。


成功する基幹システム開発の考え方:大きく計画し、小さく動かす

black laptop computer turned on on table

Photo by James Harrison on Unsplash

事業の未来まで見据えた拡張性設計が不可欠な理由

「段階的に作る」というと、「場当たり的に機能を足していくだけでは?」と思われるかもしれません。しかし、成功する段階的開発の前提には、全体像を見据えたグランドデザインが必ずあります。

将来的にどの業務領域まで対応するか、データ構造はどう設計するか、外部システムとの連携をどこまで想定するか。こうした拡張性の設計を最初に行っておかないと、後から機能を追加するたびにシステムの根幹部分を作り直す「技術的負債」が積み上がります。

「大きく計画し、小さく実装する」とは、この拡張性設計を最初に行いながら、実装は小さな単位で積み上げていくことを意味します。

段階的な機能追加がオンボーディングを成功させる

現場へのシステム定着において、見落とされがちな要素がオンボーディング(現場への導入・習熟プロセス)です。

一度に全機能を展開すると、現場担当者は「覚えることが多すぎる」という状態に陥ります。一方、まず受注管理だけを新システムに移行し、現場が慣れてきたら在庫管理を追加する、という段階的な展開であれば、担当者は一つひとつの機能を実務の中で習得できます。

システムの定着は、機能の完成度だけでなく「現場が使いこなせるかどうか」で決まります。段階的な機能追加は、開発リスクの分散だけでなく、オンボーディングの質を高める効果もあるのです。


ラボ型開発とは何か?基幹システムとの相性が良い理由

man and woman sitting at table

Photo by Andreea Avramescu on Unsplash

ラボ型開発の基本的な仕組みと特徴

ラボ型開発とは、開発チームを一定期間・一定のコストで「専属チームとして確保」し、継続的に開発を進める契約形態です。一般的には月単位の契約で、エンジニアやデザイナーが特定のプロジェクトに継続的に関与します。

従来の請負(受託)開発が「この機能一式をいくらで作る」という成果物単位の契約であるのに対し、ラボ型開発は「このチームを何ヶ月確保する」という工数単位の契約です。

現場に寄り添いながら1ステップずつ積み上げられる強み

ラボ型開発の最大の特徴は、開発チームが業務への理解を深めながら継続的に関与できる点です。

同じメンバーが長期間プロジェクトに関わることで、「この業務には例外処理がある」「この部門は月末に業務フローが変わる」といった現場固有の知識が蓄積されます。これは、プロジェクトごとに異なるチームが対応する請負開発では得にくいアドバンテージです。

また、現場からのフィードバックを受けて「やっぱりこの画面の動線を変えたい」という変更要求が出たとき、ラボ型開発であれば翌月の開発サイクルに組み込むことが比較的容易です。請負開発では、仕様変更のたびに追加費用の交渉が発生しがちです。

スクラッチ開発・パッケージ導入との違い

基幹システムの開発手法として、スクラッチ開発(ゼロから作る)とパッケージ導入(既製品を導入してカスタマイズ)がよく比較されます。ラボ型開発はこれらと対立する概念ではなく、進め方・契約形態の違いです。

スクラッチ開発をラボ型で進めることも、パッケージをベースにカスタマイズをラボ型で進めることも可能です。重要なのは、「一括で全部作る」のではなく「継続的なチームで段階的に作る」という進め方の選択です。


基幹システム開発をラボ型で進める具体的なステップ

man in orange polo shirt standing in front of table

Photo by Sam Moghadam on Unsplash

Step1:業務理解と将来設計(グランドデザイン)

最初のフェーズでは、現場へのヒアリングと業務フローの可視化に時間をかけます。「今どう動いているか」だけでなく、「3〜5年後にどんな事業規模・業務形態になっているか」まで想定し、システムの全体設計(グランドデザイン)を作ります。

ここで重要なのは、完璧な要件定義書を作ることではなく、拡張性を担保したデータ設計とシステム構成の方針を固めることです。後から機能を追加しても設計が崩れない「骨格」を作る作業と言えます。

Step2:最小限の機能から稼働開始(MVP構築)

グランドデザインをもとに、まず「これだけあれば業務が回る」という最小限の機能セット(MVP:Minimum Viable Product)を構築し、本番稼働させます。

例えば、受発注管理と在庫の基本機能だけを先行稼働させ、帳票出力や分析機能は次のフェーズに回す、といったアプローチです。この段階で現場が実際にシステムを使い始めることで、「使ってみて初めてわかる課題」が浮かび上がります。

Step3:現場フィードバックをもとに機能を段階追加

MVP稼働後は、現場からのフィードバックを定期的に収集し、優先度をつけながら機能を追加していきます。ラボ型開発チームが継続的に関与しているため、フィードバックの背景にある業務の文脈を理解した上で実装を判断できます。

このサイクルを繰り返すことで、「現場が本当に使いやすいシステム」が育っていきます。一括開発では得られない、使いながら育てるという基幹システムの在り方です。


ラボ型開発パートナーを選ぶときのチェックポイント

colorful sticky notes pinned to board

Photo by Patrick Perkins on Unsplash

ラボ型開発を提供するパートナーを選ぶ際には、以下の観点で確認することをお勧めします。

① 業務理解の姿勢があるか 技術力だけでなく、「御社の業務を理解しようとする姿勢」があるかどうかを確認しましょう。初回の打ち合わせで、技術的な話よりも業務の話を積極的に聞いてくれるパートナーは信頼できる傾向があります。

② グランドデザインの設計経験があるか 段階的に作っても設計が崩れないためには、最初の全体設計が肝心です。「MVP構築だけ得意で、全体設計の経験が薄い」パートナーは避けた方が無難です。過去の基幹システム開発の実績と、その設計アプローチを具体的に聞いてみてください。

③ 現場オンボーディングの支援ができるか システムを作るだけでなく、現場担当者への操作説明・マニュアル整備・導入後のフォローアップまで対応できるかを確認しましょう。開発と導入支援を一体で提供できるパートナーは、現場定着の観点で大きな強みになります。

④ 変更・追加への柔軟な対応ができるか 「仕様変更は追加費用」という硬直した契約では、段階的開発の恩恵が半減します。変更要求をどのように扱うか、契約の柔軟性について事前に確認しておくことが重要です。

⑤ コミュニケーションの頻度と透明性 月次の進捗報告だけでなく、週次での状況共有や課題の早期エスカレーションができる体制があるかを確認しましょう。長期プロジェクトでは、コミュニケーションの質がプロジェクト成否を左右します。


よくある質問(FAQ)

ラボ型開発と受託開発(請負開発)の違いは何ですか?

受託開発(請負)は「この機能を〇〇円で作る」という成果物単位の契約です。仕様が明確で変更が少ないプロジェクトに向いています。一方、ラボ型開発は「このチームを月〇〇円で確保する」という工数単位の契約で、継続的な業務理解と柔軟な仕様変更が求められる基幹システム開発に向いています。どちらが優れているというわけではなく、プロジェクトの性質によって使い分けるものです。

基幹システムをラボ型開発で進めると、どのくらいの期間・コストがかかりますか?

プロジェクトの規模・業務の複雑さ・チーム構成によって大きく異なるため、一概には言えません。一般的には、MVP稼働まで3〜6ヶ月、その後の機能拡張フェーズを含めると1〜2年以上の継続的な開発になるケースが多いです。コストについては、月額の契約費用と期間の掛け算になるため、最初にパートナーと「どこまでを最初のフェーズとするか」のスコープ合意をしっかり行うことが重要です。

段階的に開発すると、後から設計が崩れてしまうリスクはありませんか?

このリスクは、最初のグランドデザイン(全体設計)の質によって大きく左右されます。拡張性を考慮したデータ設計とシステム構成を最初に固めておけば、機能追加のたびに設計が崩れるリスクは抑えられます。逆に、グランドデザインを省略して「とりあえず動くものを作る」だけでは、後から技術的負債が積み上がる可能性があります。信頼できるパートナー選びと、最初の設計フェーズへの投資が重要です。

既存の基幹システムのリプレイスにもラボ型開発は使えますか?

使えます。むしろリプレイスこそ、ラボ型開発が力を発揮する場面の一つです。既存システムの業務ロジックを正確に把握しながら、新システムへの移行を段階的に進めることができます。一括移行(ビッグバン移行)はリスクが高いため、旧システムと新システムを並行稼働させながら機能単位で移行していくアプローチが現実的です。

現場の担当者がITに不慣れでも、ラボ型開発は機能しますか?

ITリテラシーが高くない現場でこそ、ラボ型開発のメリットが出やすいと言えます。一度に多くの機能を覚える必要がなく、段階的に習熟できるからです。ただし、現場担当者がフィードバックを出しやすい環境を整えることが重要です。開発チームが定期的に現場に足を運んで使い勝手を確認する、担当者が意見を言いやすい窓口を設けるといった工夫が、プロジェクトの質を高めます。

ラボ型開発に向いている企業・向いていない企業はありますか?

ラボ型開発が向いているのは、「業務フローが複雑で要件が変わりやすい」「段階的に機能を拡張していきたい」「現場との対話を重視したい」という企業です。一方、「要件が明確に固まっており、短期間で一気に完成させたい」「予算が固定で変動を許容できない」という場合は、請負開発の方が適している場合もあります。自社の状況を整理した上で、パートナーに相談してみることをお勧めします。


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著者について

徐 聖博のプロフィール写真
徐 聖博
株式会社シンシア 代表取締役社長

2020年にXincereを設立、システム開発から仲介まで幅広く従事。以前はIndeedの検索エンジン開発、株式会社メドレーやカウンティア株式会社にてスタートアップの立ち上げ・グロースフェーズなどに関わる。そのほか複数のスタートアップで技術アドバイザーも経験。

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