要件定義に準委任契約が使われる理由|請負との違いと実務上の注意点

契約・開発体制公開日:2026年5月29日
徐 聖博
徐 聖博

株式会社シンシア 代表取締役社長

要件定義フェーズに準委任契約が使われる理由

three men sitting while using laptops and watching man beside whiteboard

Photo by Austin Distel on Unsplash

結論から言うと、要件定義フェーズに準委任契約が選ばれる主な理由は次の3点です。 ①要件定義は完成形を事前に確定しにくいため請負契約の「完成義務」になじまない、②仕様変更や追加検討が頻繁に発生するため柔軟な対応が求められる、③発注側とベンダーが協力しながら要件を作り上げるプロセスに、準委任の「業務遂行義務」が適している。

要件定義は「完成物」を事前に確定しにくい

システム開発の要件定義フェーズでは、ヒアリング・業務分析・要件の整理といった作業を通じて、はじめて「何を作るか」が明確になっていきます。プロジェクト開始時点では、発注側自身も最終的な要件定義書の内容を具体的に描けないケースが大半です。

請負契約は「仕事の完成」を目的とする契約形態であり、成果物の内容があらかじめ明確に定義されていることが前提になります。要件が固まっていない段階で請負契約を結んでしまうと、「何をもって完成とするか」が曖昧なまま進行し、後々トラブルの原因になりやすいです。

準委任契約なら仕様変更に柔軟に対応できる

準委任契約は、成果物の完成ではなく「業務の遂行」を目的とする契約です。ベンダーは善管注意義務(善良な管理者として期待される水準の注意を払う義務)を負いながら業務を進めますが、最終的な成果物の完成を保証するわけではありません。

この特性が、要件定義フェーズとの相性をよくしています。途中で業務範囲が変わっても、都度合意の上で対応範囲を調整しやすく、発注側とベンダーが協力しながら要件を固めていくプロセスに適しています。


準委任契約と請負契約の基本的な違い

black laptop computer turned on on table

Photo by James Harrison on Unsplash

完成義務の有無

請負契約では、ベンダーは合意した成果物を完成させる義務を負います。一方、準委任契約では成果物の完成義務はなく、定められた業務を誠実に遂行することが求められます。

報酬の発生タイミング

請負契約では、原則として成果物の完成・納品をもって報酬が発生します。準委任契約(特に履行割合型)では、業務を遂行した時間・工数に応じて報酬が発生するのが一般的です。

瑕疵担保責任(契約不適合責任)の扱い

請負契約では、成果物に欠陥(契約不適合)があった場合、ベンダーは修補・損害賠償などの責任を負います(民法上の契約不適合責任)。準委任契約では、成果物の完成を保証しないため、この責任は原則として発生しません。ただし、業務遂行上の過失があれば、善管注意義務違反として損害賠償を請求できる場合があります。

比較項目請負契約準委任契約
目的成果物の完成業務の遂行
完成義務ありなし
報酬発生成果物の完成・納品時業務遂行に応じて(型による)
契約不適合責任原則あり原則なし
善管注意義務ありあり
仕様変更への対応変更契約が必要になりやすい比較的柔軟に対応しやすい

準委任契約の2種類:履行割合型と成果完成型

group of people having a meeting

Photo by Mario Gogh on Unsplash

2020年の民法改正により、準委任契約は「履行割合型」と「成果完成型」の2種類が明文化されました。

履行割合型とは

業務を遂行した割合に応じて報酬が発生する形態です。たとえば「月40時間のヒアリング・分析業務を月額100万円で委託する」といった形で、時間や工数が報酬の基準になります。途中で業務が中断された場合も、遂行済みの部分に応じた報酬を請求できるのが特徴です。

シナリオ例: 要件定義の初期フェーズで、業務フローの整理やステークホルダーへのヒアリングを月次で依頼するケース。作業の進捗に応じて毎月請求が発生し、スコープが変わっても柔軟に対応できます。

成果完成型とは

特定の成果物が完成した時点で報酬が発生する形態です。請負契約に近い性質を持ちますが、契約不適合責任は原則として発生しない点が異なります。

シナリオ例: 要件定義書の初版ドラフトを納品することを条件に報酬が発生する契約。成果物の完成が報酬の条件になるため、ベンダー側のアウトプット責任が明確になります。

要件定義ではどちらを選ぶべきか

一般的には、要件定義の初期段階では履行割合型が選ばれることが多いです。要件が流動的な段階では、成果物の定義自体が変わる可能性があるため、業務遂行に応じた報酬体系の方がリスクを分散しやすいためです。

一方、要件定義の後半で「要件定義書の完成版を納品する」という形で成果完成型に切り替えるケースもあります。プロジェクトの性質や発注側の管理体制に応じて選択するのが実務的なアプローチです。


要件定義で準委任契約を結ぶ際の注意点

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Photo by Anastassia Anufrieva on Unsplash

成果物の定義を曖昧にしすぎない

準委任契約は成果物の完成を保証しないとはいえ、「何を作業するか」「どのようなドキュメントを提出するか」を契約書や作業範囲定義書(SOW)に明記しておくことが重要です。成果物の定義が曖昧なまま進むと、「ヒアリング議事録だけで終わった」「要件定義書の体裁が想定と全く違った」といったトラブルにつながりやすくなります。

ベンダーの善管注意義務を確認する

準委任契約でもベンダーは善管注意義務を負います。この義務は「その業務の専門家として期待される水準の注意を払う」ことを意味します。具体的には、明らかに実現不可能な要件を黙認せず指摘する、リスクを発見した場合に報告するといった行動が含まれます。

契約書に「報告義務」「助言義務」の条項を盛り込んでおくと、双方の期待値のズレを防ぎやすくなります。

次フェーズへの契約切り替えタイミングを明確にする

要件定義が完了した後、基本設計・詳細設計・開発フェーズへ移行する際に契約形態を切り替えることが多いです。このタイミングを曖昧にしておくと、「要件定義が終わったのに準委任のまま開発が始まってしまった」「いつ請負契約を締結するか合意できていない」といった問題が起きやすくなります。

フェーズの完了条件(例:発注側の要件定義書承認)と、次フェーズの契約締結手続きのスケジュールをあらかじめ合意しておくことを推奨します。


フェーズ別の契約形態の使い分け例

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Photo by Paper Textures on Unsplash

要件定義・基本設計は準委任、詳細設計以降は請負

システム開発プロジェクトでよく見られる契約構成として、上流工程(要件定義・基本設計)を準委任契約、下流工程(詳細設計・開発・テスト)を請負契約とする分け方があります。

上流工程は不確実性が高く、発注側とベンダーが協力して成果物を作り上げるプロセスが中心になります。一方、詳細設計以降は要件が固まった状態で進めるため、成果物の完成を保証する請負契約が適しています。

ただし、基本設計の段階でも要件の変動が大きいプロジェクトでは、基本設計まで準委任で進めるケースもあります。一律のルールはなく、プロジェクトの性質に応じた判断が求められます。

アジャイル開発における準委任契約の活用

アジャイル開発では、スプリントごとに機能を積み上げていくため、最終的な成果物を事前に確定することが難しいです。このため、アジャイル開発全体を準委任契約(履行割合型)で進めるケースが増えています。

スプリントごとに作業内容と工数を合意し、完了後に報告・請求するサイクルを繰り返す形が一般的です。発注側は進捗を細かく確認できる反面、最終的なコストが見えにくくなるリスクもあるため、予算の上限管理や定期的なスコープ見直しの仕組みを設けることが重要です。


よくある質問(FAQ)

要件定義フェーズに請負契約を使うとどんなリスクがありますか?

要件が固まっていない段階で請負契約を締結すると、「何をもって完成とするか」が不明確なまま進行するリスクがあります。仕様変更のたびに変更契約が必要になり、発注側・ベンダー双方の負担が増えやすいです。また、完成義務を負うベンダーが過度に慎重になり、柔軟な提案がしにくくなるケースもあります。

準委任契約で要件定義書を作成した場合、成果物の所有権はどちらになりますか?

一般的には、契約書に著作権・所有権の帰属を明記しておく必要があります。明記がない場合、著作権はベンダー側に残るリスクがあります。発注側が要件定義書を自由に利用・改変したい場合は、著作権の譲渡または利用許諾の条項を契約書に盛り込むことを検討してください。

準委任契約でもベンダーに責任を問えますか?

成果物の完成に関する責任は問いにくいですが、善管注意義務違反があった場合は損害賠償を請求できる可能性があります。たとえば、明らかなリスクを報告せずに業務を進めた、専門家として不適切な判断をしたといったケースが該当しうります。ただし、立証には一定のハードルがあるため、トラブルを防ぐには契約時の報告義務・作業範囲の明確化が有効です。

要件定義が終わったら自動的に請負契約に切り替わりますか?

自動的には切り替わりません。フェーズが変わるたびに新たな契約を締結するか、基本契約に個別契約を追加する形で対応するのが一般的です。要件定義フェーズの完了条件と次フェーズの契約締結スケジュールをあらかじめ合意しておくことが重要です。

準委任契約の履行割合型と成果完成型はどう使い分ければよいですか?

要件が流動的で作業範囲が変わりやすい初期段階では履行割合型、要件定義書の完成版納品など成果物が明確に定義できる段階では成果完成型が向いています。プロジェクトの進捗に応じて途中で切り替えることも可能です。

要件定義の準委任契約で費用が膨らんだ場合、どう対処すればよいですか?

履行割合型では工数に応じて費用が発生するため、スコープが広がると費用が増えやすいです。対策としては、月次・スプリント単位で作業内容と工数の上限を合意する、定期的な進捗報告で費用の見通しを確認する、追加作業が発生した際は都度合意を取るといった管理プロセスを設けることが有効です。

アジャイル開発でも準委任契約は使えますか?

使えます。むしろアジャイル開発との相性は高く、スプリントごとに作業範囲と工数を合意しながら進める形が広く採用されています。ただし、発注側がスプリントレビューや進捗確認に積極的に関与できる体制を整えることが、プロジェクトを健全に進める上で重要です。

著者について

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徐 聖博
株式会社シンシア 代表取締役社長

2020年にXincereを設立、システム開発から仲介まで幅広く従事。以前はIndeedの検索エンジン開発、株式会社メドレーやカウンティア株式会社にてスタートアップの立ち上げ・グロースフェーズなどに関わる。そのほか複数のスタートアップで技術アドバイザーも経験。

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