野村不動産HDのグループ横断DXに学ぶ——技術選定より先に「定義」と「やらないこと」を決める

DX・業務改善公開日:2026年7月15日
徐 聖博
徐 聖博

株式会社シンシア 代表取締役社長

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野村不動産HDのグループ横断DX——最初にやったのは技術選定ではなく「定義」と「やらないことの明確化」

「DXが進まない」と言うとき、多くの企業はツールや技術の話から入る。JBpressが公開した野村不動産ホールディングス・髙田智治氏 (執行役員 グループDX戦略部担当) へのインタビューは、その逆の順番——定義と方針から始める——を9事業の縦割り組織で5年間実践してきた記録だ。公開部分から読み取れる事実を整理し、私の見解を書く。

出典: 9事業の縦割り組織でグループ横断DXを推進、野村不動産HDが5年の試行錯誤でたどり着いた変革の「本丸」(JBpress Innovation Review)

要点 (事実のみ)

  • 野村不動産HDは2021年にグループ横断のDXを本格始動。DX推進室が発足し、野村総合研究所出身の髙田智治氏が室長に就任、初期メンバーは5名だった
  • 発足当時の状況として、グループ共通のDX基盤が無く、紙文化が根強く、事業部門ごとの縦割り文化の下で「DXは専門の部署がやるもの」という意識もあったと髙田氏は語っている
  • 最初に着手したのはDXの「定義」と「大方針」の策定。9カ年の中長期経営計画・3カ年の中期計画の立案時期と重ねて、投資の対象と順番を定めた
  • 同社はDXを「デジタルビジネストランスフォーメーション」と定義し、顧客の生活の質 (QoL) 向上への貢献を大方針とした
  • 「何をやらないか」も明確化した——データ販売事業や広告事業につながるDXには手を出さない、と決めている
  • 髙田氏は1992年に川崎製鉄でAIの研究開発に従事した後、野村総合研究所を経て2021年に野村不動産HDに入社。2025年に執行役員に就任した

なお、インタビューの後半 (タイトルにある変革の「本丸」の中身) は会員限定のため、本記事は公開部分の事実に基づいて論評する。

徐 聖博の見解

この記事で一番価値があるのは、「最初の一手が技術ではなかった」という点だと私は考えている。DXの相談を受けていて頻繁に出会うのは、「どのツールを入れるべきか」から会話が始まるケースだ。しかし野村不動産HDが最初にやったのは、DXの定義を決め、経営計画と投資の順番を揃え、そして「やらないこと」を明文化することだった。特にデータ販売や広告事業に手を出さないという線引きは、リソース配分の議論を毎回ゼロからやり直さなくて済むという意味で、その後の5年間の意思決定コストを大きく下げたはずだ。

もう一つ注目したいのは、「DXは専門の部署がやるもの」という意識を課題として名指ししている点だ。これは発注側の企業がベンダーに開発を丸投げするときの構造とまったく同じで、推進室を作ること自体は解決にならない——5名の推進室は起点であって、主体は事業部門側にある。当社の受託開発でも、発注側に「自分事として仕様判断をする人」がいるプロジェクトとそうでないプロジェクトでは、成果物の定着率が目に見えて違う。

中小企業がこの事例から取るべき示唆は、規模の模倣ではなく順番の模倣だ。推進室が5名からだったことが示すとおり、必要なのは大所帯ではない。「自社にとってのDXの定義」「やらないことのリスト」「経営計画との接続」の3点を先に紙にすること——ツール選定はその後でいい。

(編集レンズ: 組織・人材への含意 / 発注側・中小企業への含意 / 実装・運用視点)

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株式会社Atsumell様|サービスを止めずにデータ基盤を刷新したBPマッチングプラットフォームの開発事例

**約11ヶ月・のべ4名のリレーで、機能開発を止めることなく基盤の刷新を完了しました。** 参画時期の重なりは最大2〜3名で、メンバーは1ヶ月の短期集中から5ヶ月の継続稼働までさまざまです。それでも積み上げが効いたのは、**先に入ったメンバーが構造を残していたから**でした。2025年7月に導入された Repository 層の上で、半年後に別のメンバーが移行作業を進めています。認可条件はコード上の仕様コメントとして、スナップショット方式はアーキテクチャドキュメントとして残り、いずれも「引き継いだ人が読んで分かる」形になっています。 この期間に手掛けた業務機能は、協力会社のラベル分類機能、パートナー企業管理画面、CSV による一括招待とデータ出力、案件辞退フロー、ステータス変更通知メールなど多岐にわたります。基盤刷新と機能開発は、どちらかを止めて行ったものではありません。 > 大規模な基盤刷新は「一度止めて作り直す」以外にも方法があります。呼び出し側を壊さない層を挟み、テーブル単位で少しずつ移し、移行と改善を混ぜない。この3つを守れば、リリースを止めずに土台は入れ替えられます。事業を止められないプロダクトほど、この進め方の価値が出ます。 ### この事例からの示唆 **稼働中のサービスでも基盤は入れ替えられる。** 前提は、呼び出し側の契約(戻り値の形)を保つ中間層を挟むこと、移行単位をテーブルや画面まで小さく割ること、そして移行と機能改善を同じコミットに混ぜないことの3点です。この3つが崩れると、不具合が出たときに原因が移行なのか改善なのか切り分けられなくなり、結果として一度止めるしかなくなります。 **メンバーが入れ替わる前提の体制では、成果物より「残る構造」が価値になる。** 短期参画のエンジニアを増やしても積み上がらないプロジェクトは、設計判断が個人の記憶に閉じていることが原因であるケースが多いです。この事例では、認可条件をコード上の仕様コメントとして、データ設計をアーキテクチャドキュメントとして残す運用を徹底しました。開発体制の失敗パターンについては[システム開発の失敗から立て直す方法](https://blog.xincere.jp/articles/system-development-failure-patterns)でも整理しています。 **要件が固まりきらない領域ほど、データ設計で制約を表現する。** 「協力会社が人材情報を編集したら応募内容が変わってしまう」といった問題は、運用ルールやUIの注意書きでは再発します。スキーマとトリガーで表現すれば、アプリ側の実装漏れがあっても壊れません。要件を仕様に落とす工程そのものについては[要件定義の進め方](https://blog.xincere.jp/articles/requirements-definition-process)を参照してください。 ### よくある質問 **Q. 稼働中のサービスを止めずに基盤刷新はできますか。** A. できます。この事例では約11ヶ月にわたり、機能リリースを継続しながらデータアクセス基盤の移行と主キー変更まで実施しました。ただし「一斉に切り替える」やり方では現実的に困難で、呼び出し側を壊さない中間層を用意して段階移行する設計が前提になります。 **Q. 途中でメンバーが入れ替わる体制でも品質は保てますか。** A. 設計判断がドキュメントとコードに残っていれば保てます。この事例では参画時期の重なりが最大2〜3名、1ヶ月だけの参画者もいる体制で、前任の導入した層の上に後任が半年後の移行作業を積み上げています。 **Q. どのくらいの規模・期間の支援ですか。** A. 約11ヶ月、のべ4名(同時稼働は最大2〜3名)です。プロジェクトの規模や費用感の考え方は[システム開発とは](https://blog.xincere.jp/articles/what-is-system-development)で解説しています。 ### 関連する支援領域 - [システム刷新の進め方|検討・計画から移行までの方法](https://blog.xincere.jp/articles/core-system-renewal-guide) — 稼働中システムを止めずに刷新する判断基準 - [業務システム開発の要件定義とは?進め方・手順を7ステップで解説](https://blog.xincere.jp/articles/business-system-development-requirements-definition-steps) — 要件を仕様に落とす工程 - [システム開発の失敗から立て直す方法](https://blog.xincere.jp/articles/system-development-failure-patterns) — 体制・引き継ぎで詰まったときの選択肢 同じように「稼働を止められないプロダクトの基盤を作り替えたい」という課題をお持ちでしたら、[開発のご相談](https://blog.xincere.jp/contacts)からお問い合わせください。現状のコードとデータ構造を確認したうえで、段階移行の設計からご一緒します。

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徐 聖博
株式会社シンシア 代表取締役社長

株式会社シンシア(Xincere, Inc.)代表取締役。中国生まれ・3歳から日本で育ち、日本語・中国語・英語を操るトリリンガル。大学院でコンピュータサイエンス(進化型ニューラルネットワーク)を研究し、GREE・メドレー・カウンティア・Indeed Japan などで検索エンジン開発やスタートアップの立ち上げ・グロースを経験。2020年に「人の価値をテクノロジーで最大化する」という想いでシンシアを創業した。エンジニア歴15年以上、代表でありながらほぼ毎日コードを書く現役エンジニアとして、基幹システム開発からAIエージェント活用まで顧客の事業成長に並走している。創業に込めた思いはnoteの創業ストーリーに綴っている。

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