要件定義に準委任契約が使われる理由|請負との違いと選び方を解説

契約・開発体制公開日:2026年1月31日
徐 聖博
徐 聖博

株式会社シンシア 代表取締役社長

要件定義に準委任契約が使われる理由【結論から解説】

three men sitting while using laptops and watching man beside whiteboard

Photo by Austin Distel on Unsplash

要件定義フェーズに準委任契約が選ばれる最大の理由は、工程開始時点で成果物の内容や範囲を確定できないからです。

システム開発の要件定義は、発注者(ユーザー企業)とベンダー(開発会社)が対話を重ねながら仕様を作り上げていくプロセスです。最終的な成果物が事前に明確に定義できない以上、「完成物の引き渡し」を前提とする請負契約よりも、「業務の遂行」に対して報酬が発生する準委任契約のほうが実態に合っています。

この記事では、準委任契約の基本から請負契約との違い、要件定義フェーズへの適用理由、注意点、そして発注者・ベンダー双方のチェックポイントまでを体系的に解説します。


準委任契約とは?基本的な定義と法的根拠

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Photo by Arnold Francisca on Unsplash

民法上の位置づけ(民法第656条・第643条)

準委任契約は、民法第656条に規定されています。同条は「法律行為でない事務の委託」に対して、委任に関する規定(民法第643条以下)を準用するとしています。

簡単にいえば、専門家に特定の業務を依頼し、その遂行に対して報酬を支払う契約形態です。弁護士への法律相談や医師への診療なども、広義では同様の考え方に基づいています。

システム開発における準委任契約では、ベンダーは「善管注意義務(善良な管理者の注意義務)」をもって業務を遂行することが求められます。ただし、成果物の完成を保証する義務は原則として負わないとされています。

履行割合型と成果完成型の2種類

2020年の民法改正(債権法改正)により、準委任契約の報酬形態が明文化されました。

  • 履行割合型:作業した時間・工数に応じて報酬が発生する。成果物が完成しなくても、遂行した業務の割合に応じた報酬を請求できる。
  • 成果完成型:あらかじめ合意した成果物が完成した時点で報酬が発生する。請負契約に近い性質を持つが、瑕疵担保責任(契約不適合責任)の扱いが異なる。

要件定義フェーズでは、一般的に履行割合型が採用されることが多いとされています。


請負契約との違いを比較表で確認

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Photo by Romain Dancre on Unsplash

比較項目準委任契約請負契約
報酬の発生条件業務の遂行(または成果の完成)成果物の完成・引き渡し
完成義務原則なしあり
契約不適合責任原則なし(成果完成型は例外あり)あり
リスク負担発注者側に大きいベンダー側に大きい
向いているフェーズ要件定義・基本設計・運用保守詳細設計・開発・テスト

完成義務・瑕疵担保責任の有無

請負契約では、ベンダーは成果物を完成させる義務を負い、完成した成果物に不具合があった場合は契約不適合責任(旧:瑕疵担保責任)を問われる可能性があります。

一方、準委任契約では原則として完成義務を負いません。ただし、善管注意義務を怠った場合は債務不履行として損害賠償を請求される可能性はあります。

報酬の発生タイミング

請負契約では、成果物が完成・引き渡されて初めて報酬が発生するのが原則です。途中でプロジェクトが中断した場合、ベンダーは報酬を受け取れないリスクがあります。

準委任契約(履行割合型)では、業務を遂行した分に応じて報酬が発生します。月次精算や工数精算が一般的です。

リスク負担の所在

請負契約はベンダー側がリスクを多く負う構造です。仕様変更が多発すると、ベンダーは追加費用を請求しにくい状況に陥ることがあります。

準委任契約は発注者側がコスト超過のリスクを負います。作業が長引けばそのぶん費用が増えるため、発注者の管理責任が重くなります。


要件定義フェーズで準委任契約が適切な理由

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Photo by Markus Winkler on Unsplash

工程開始時点で成果物を確定できない

要件定義とは、「何を作るか」を決めるプロセスです。プロジェクト開始時点では、システムの機能・画面数・データ構造などが確定していないことがほとんどです。

例えば、ある製造業の企業が在庫管理システムの刷新を検討するケースを考えてみましょう。発注者は「現行システムの課題を解消したい」という漠然とした要望しか持っていないことが多く、具体的な機能要件はヒアリングや業務分析を通じて初めて明確になります。

このような状況で請負契約を結ぶと、「何を完成させるか」が不明確なまま契約することになり、後から仕様変更が多発して双方にとって不利益が生じやすくなります。

ユーザーとベンダーが協働して仕様を作り上げる性質

要件定義は、発注者の業務知識とベンダーの技術知識を組み合わせて進める共同作業です。発注者が業務フローを説明し、ベンダーがシステム化の観点から整理・提案する、というやり取りを繰り返します。

この協働プロセスは、「成果物を納品する」という請負の概念よりも、「専門的な業務を遂行する」という準委任の概念に自然と合致します。

IPA モデル契約における位置づけ

IPA(情報処理推進機構)が公開している「情報システム・モデル取引・契約書」では、要件定義フェーズを準委任契約で締結することが推奨されています。このモデル契約は業界で広く参照されており、多くのシステム開発プロジェクトで契約書作成の参考にされています。

IPAのモデル契約が準委任を推奨する背景には、「要件定義の性質上、完成物を事前に特定することが困難」という実務上の認識があります。


準委任契約を選ぶ際の注意点とリスク

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Photo by Annie Spratt on Unsplash

成果物の定義が曖昧になりやすい

準委任契約は完成義務がないため、「何を作るか」の定義が曖昧になりがちです。契約書や作業指示書に、納品物の種類・形式・品質基準・確認プロセスを明記しておくことが重要です。

例えば「要件定義書を納品する」と定めるだけでなく、「〇〇のテンプレートに従い、機能一覧・業務フロー図・画面遷移図を含む要件定義書を提出する」というレベルまで具体化することが望ましいとされています。

費用が青天井になるリスクへの対策

履行割合型の準委任契約では、作業が長引くほど費用が増加します。発注者としては以下の対策が有効です。

  • 上限工数・上限金額を契約書に明記する
  • 週次・月次で進捗報告を受け、作業量を把握する
  • フェーズを細かく区切り、都度契約を更新する

要件定義書の取り扱いと確認プロセスの重要性

要件定義書は後続フェーズ(設計・開発)の基盤となる重要な成果物です。準委任契約であっても、要件定義書の内容について発注者が承認・確認するプロセスを設けることが不可欠です。

確認なしに次フェーズへ進むと、「認識のズレ」が後から発覚し、大規模な手戻りが発生するリスクがあります。


フェーズ別の契約形態の使い分け方

要件定義・基本設計は準委任、詳細設計以降は請負が一般的

一般的なシステム開発プロジェクトでは、以下のような使い分けが行われることが多いとされています。

フェーズ推奨される契約形態理由
要件定義準委任成果物の事前確定が困難
基本設計準委任または請負要件の確定度合いによる
詳細設計・開発・テスト請負仕様が確定しており完成義務を課せる
運用・保守準委任継続的な業務遂行が主体

要件定義が完了して仕様が固まった段階で、詳細設計以降を請負契約に切り替えることで、発注者はコスト予測を立てやすくなり、ベンダーは明確な完成基準のもとで作業を進められます。

運用・保守フェーズにおける準委任の活用

システムリリース後の運用・保守フェーズも、準委任契約が適しているケースが多いとされています。障害対応・機能改善・問い合わせ対応など、事前に成果物を特定しにくい業務が中心となるためです。


発注者・ベンダーそれぞれが確認すべきチェックリスト

発注者(ユーザー企業)側

  • 契約書に納品物の種類・形式・品質基準が明記されているか
  • 上限工数または上限金額が設定されているか
  • 進捗報告の頻度・形式が定められているか
  • 要件定義書の承認プロセス(レビュー・サインオフ)が明確か
  • 次フェーズへの移行条件が合意されているか
  • 知的財産権(要件定義書の著作権)の帰属が明記されているか

ベンダー(開発会社)側

  • 作業範囲(スコープ)が契約書または作業指示書に明記されているか
  • 発注者の協力義務(情報提供・意思決定のタイムライン)が定められているか
  • 月次精算・工数報告のフローが合意されているか
  • 要件定義書の品質基準・レビュー体制が明確か
  • プロジェクト中断・解約時の精算ルールが定められているか
  • 次フェーズ(請負契約)への移行に関する優先交渉権の有無

よくある質問(FAQ)

要件定義フェーズで請負契約を結ぶとどんな問題が起きますか?

要件定義を請負契約で締結すると、「何を完成させるか」が不明確なまま契約することになります。その結果、仕様変更のたびに契約変更交渉が必要になったり、ベンダーが追加費用を請求しにくくなって品質を犠牲にするリスクが生じたりすることがあります。また、発注者が「完成物を受け取る権利がある」と主張しやすくなり、双方の認識のズレからトラブルに発展するケースもあります。

準委任契約で要件定義書が完成しなかった場合、費用は発生しますか?

履行割合型の準委任契約では、成果物が完成しなくても遂行した業務の割合に応じた報酬が発生するのが原則です。ただし、ベンダーが善管注意義務を怠った場合は損害賠償を請求される可能性があります。費用の発生条件や中断時の精算ルールは、事前に契約書で明確にしておくことが重要です。

準委任契約の「履行割合型」と「成果完成型」はどう使い分けますか?

要件定義のように成果物の内容が流動的なフェーズには履行割合型が適しています。一方、「要件定義書を作成して納品する」という形で成果物を明確に定義できる場合は成果完成型も選択肢になります。成果完成型は請負契約に近い性質を持つため、成果物の定義と品質基準を事前に明確化することが前提となります。

要件定義を準委任契約で進める際、発注者はどこまで関与すべきですか?

準委任契約では発注者の関与が非常に重要です。業務フローの説明・ヒアリングへの参加・要件定義書のレビューと承認など、積極的に関与することが求められます。発注者の意思決定が遅れると作業が停滞し、コスト増加につながるため、担当者の権限と意思決定のタイムラインをあらかじめ決めておくことが望ましいとされています。

準委任契約でも成果物(要件定義書)を納品させることはできますか?

できます。準委任契約であっても、契約書や作業指示書に「要件定義書を納品する」と明記することで、成果物の提出を義務づけることは一般的に行われています。ただし、請負契約のような「完成保証」とは異なるため、品質基準・確認プロセス・不備があった場合の対応を別途定めておくことが重要です。

要件定義が終わった後、設計フェーズで契約形態を変更する手続きは?

一般的には、要件定義フェーズの準委任契約が終了した後、新たに設計・開発フェーズの請負契約を締結します。フェーズ移行時には、要件定義書の内容を双方が確認・承認した上で、請負契約の対象範囲・金額・納期を合意します。フェーズをまたぐ契約変更は、トラブル防止のために書面で明確に行うことが重要です。

準委任契約と時間・材料契約(T&M契約)は同じものですか?

厳密には異なります。T&M(Time & Materials)契約は主に欧米で使われる契約形態で、実際にかかった時間と材料費に基づいて報酬を支払う仕組みです。日本の準委任契約(履行割合型)と概念的に近い部分はありますが、法的根拠や契約条件の詳細は異なります。日本の法律に基づくプロジェクトでは、民法上の準委任契約の枠組みで検討することが一般的です。


注意事項:この記事は一般的な情報提供を目的としており、個別の法的アドバイスを提供するものではありません。実際の契約締結にあたっては、弁護士や法務の専門家にご相談されることをお勧めします。

著者について

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徐 聖博
株式会社シンシア 代表取締役社長

2020年にXincereを設立、システム開発から仲介まで幅広く従事。以前はIndeedの検索エンジン開発、株式会社メドレーやカウンティア株式会社にてスタートアップの立ち上げ・グロースフェーズなどに関わる。そのほか複数のスタートアップで技術アドバイザーも経験。

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