「プラットフォームの手の内化」が問う、AI時代の内製能力——レッドハット2026年度戦略発表から考える
レッドハットが示した「AIネイティブ時代」への処方箋は、技術製品の紹介にとどまらず、「自社でIT基盤をコントロールできているか」という根本的な問いを企業に突きつけている。
出典: AIネイティブ時代にどう立ち向かう? レッドハットが示すエンジニアリングプラットフォームの「手の内化」
要点 (事実のみ)
- レッドハットの2025年度売上高は前年比12.9%増(為替変動調整後11.7%増)。Red Hat OpenShift Virtualizationの利用率は前年比417%増。
- 2026年度スローガンは「『AIネイティブ』な日本を共に創る」。「プラットフォームの手の内化」「AIと共創する開発体験」「信頼のあるAI実行基盤」の3方向性を発表。
- JALデジタルは内部開発者ポータル(IDP)とPlatform Engineeringの整備により、開発環境のリードタイムを165日から30分に短縮。関連申請書は40種類以上あった。
- 三井住友カードは2025年9月に「デジタルイノベーションオフィス(DIO)」を設立。共通エンジニアリングプラットフォーム構築により開発効率が体感2倍に向上し、組織は15名から2026年内に約100名規模への拡大を見込む。
- Red Hat Enterprise Linux Long-Life Add-onを2026年5月のサミットで発表。特定メジャーバージョンの保守契約を無期限提供。NVIDIAとの協業でAI Factory with NVIDIAも提供開始。
徐 聖博の見解
今回の発表で私が注目したのは、製品ラインナップよりもJALデジタルの数字だ。「165日から30分」というリードタイム短縮は、技術的な成果である以前に、組織が何十枚もの申請書と格闘することを「当たり前」として受け入れていた、という構造的な問題を可視化した結果として読むべきだろう。
Xincereでも受託開発を通じて、中小〜中堅企業の開発現場を多く見てきた。「環境構築だけで数週間かかる」「セキュリティ審査が通るまでコードが書けない」という状況は珍しくない。AIコーディングツールがどれだけ優れていても、その前段のインフラ環境が属人的で脆弱であれば、AIの恩恵は開発者に届かない。Platform Engineering(PFE)が注目される理由はここにある。
三井住友カードが強調した「特定ベンダーに依存しないオープンな技術スタック」も実務的な視点から納得感がある。AIモデルの入れ替わりは今後も速い。特定モデルに最適化したアーキテクチャを組むと、半年後の刷新コストが跳ね上がる。基盤をオープンに保つことは、選択肢を残すことと同義だ。
一方、「手の内化」は相応の組織能力と継続投資を前提にする。プラットフォームを構築した後に運用し続ける人材と体制が社内になければ、ベンダー依存を別の形で再生産するリスクもある。この判断は技術選定ではなく、経営判断の領域に属する。
(編集レンズ: 実装・運用視点 / 発注側・中小企業への含意)