「プラットフォームの手の内化」が問う、AI時代の内製能力——レッドハット2026年度戦略発表から考える

AI開発・生成AI活用公開日:2026年7月2日
徐 聖博
徐 聖博

株式会社シンシア 代表取締役社長

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「プラットフォームの手の内化」が問う、AI時代の内製能力——レッドハット2026年度戦略発表から考える

レッドハットが示した「AIネイティブ時代」への処方箋は、技術製品の紹介にとどまらず、「自社でIT基盤をコントロールできているか」という根本的な問いを企業に突きつけている。

出典: AIネイティブ時代にどう立ち向かう? レッドハットが示すエンジニアリングプラットフォームの「手の内化」

要点 (事実のみ)

  • レッドハットの2025年度売上高は前年比12.9%増(為替変動調整後11.7%増)。Red Hat OpenShift Virtualizationの利用率は前年比417%増。
  • 2026年度スローガンは「『AIネイティブ』な日本を共に創る」。「プラットフォームの手の内化」「AIと共創する開発体験」「信頼のあるAI実行基盤」の3方向性を発表。
  • JALデジタルは内部開発者ポータル(IDP)とPlatform Engineeringの整備により、開発環境のリードタイムを165日から30分に短縮。関連申請書は40種類以上あった。
  • 三井住友カードは2025年9月に「デジタルイノベーションオフィス(DIO)」を設立。共通エンジニアリングプラットフォーム構築により開発効率が体感2倍に向上し、組織は15名から2026年内に約100名規模への拡大を見込む。
  • Red Hat Enterprise Linux Long-Life Add-onを2026年5月のサミットで発表。特定メジャーバージョンの保守契約を無期限提供。NVIDIAとの協業でAI Factory with NVIDIAも提供開始。

徐 聖博の見解

今回の発表で私が注目したのは、製品ラインナップよりもJALデジタルの数字だ。「165日から30分」というリードタイム短縮は、技術的な成果である以前に、組織が何十枚もの申請書と格闘することを「当たり前」として受け入れていた、という構造的な問題を可視化した結果として読むべきだろう。

Xincereでも受託開発を通じて、中小〜中堅企業の開発現場を多く見てきた。「環境構築だけで数週間かかる」「セキュリティ審査が通るまでコードが書けない」という状況は珍しくない。AIコーディングツールがどれだけ優れていても、その前段のインフラ環境が属人的で脆弱であれば、AIの恩恵は開発者に届かない。Platform Engineering(PFE)が注目される理由はここにある。

三井住友カードが強調した「特定ベンダーに依存しないオープンな技術スタック」も実務的な視点から納得感がある。AIモデルの入れ替わりは今後も速い。特定モデルに最適化したアーキテクチャを組むと、半年後の刷新コストが跳ね上がる。基盤をオープンに保つことは、選択肢を残すことと同義だ。

一方、「手の内化」は相応の組織能力と継続投資を前提にする。プラットフォームを構築した後に運用し続ける人材と体制が社内になければ、ベンダー依存を別の形で再生産するリスクもある。この判断は技術選定ではなく、経営判断の領域に属する。

(編集レンズ: 実装・運用視点 / 発注側・中小企業への含意)

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株式会社Atsumell様|サービスを止めずにデータ基盤を刷新したBPマッチングプラットフォームの開発事例

**約11ヶ月・のべ4名のリレーで、機能開発を止めることなく基盤の刷新を完了しました。** 参画時期の重なりは最大2〜3名で、メンバーは1ヶ月の短期集中から5ヶ月の継続稼働までさまざまです。それでも積み上げが効いたのは、**先に入ったメンバーが構造を残していたから**でした。2025年7月に導入された Repository 層の上で、半年後に別のメンバーが移行作業を進めています。認可条件はコード上の仕様コメントとして、スナップショット方式はアーキテクチャドキュメントとして残り、いずれも「引き継いだ人が読んで分かる」形になっています。 この期間に手掛けた業務機能は、協力会社のラベル分類機能、パートナー企業管理画面、CSV による一括招待とデータ出力、案件辞退フロー、ステータス変更通知メールなど多岐にわたります。基盤刷新と機能開発は、どちらかを止めて行ったものではありません。 > 大規模な基盤刷新は「一度止めて作り直す」以外にも方法があります。呼び出し側を壊さない層を挟み、テーブル単位で少しずつ移し、移行と改善を混ぜない。この3つを守れば、リリースを止めずに土台は入れ替えられます。事業を止められないプロダクトほど、この進め方の価値が出ます。 ### この事例からの示唆 **稼働中のサービスでも基盤は入れ替えられる。** 前提は、呼び出し側の契約(戻り値の形)を保つ中間層を挟むこと、移行単位をテーブルや画面まで小さく割ること、そして移行と機能改善を同じコミットに混ぜないことの3点です。この3つが崩れると、不具合が出たときに原因が移行なのか改善なのか切り分けられなくなり、結果として一度止めるしかなくなります。 **メンバーが入れ替わる前提の体制では、成果物より「残る構造」が価値になる。** 短期参画のエンジニアを増やしても積み上がらないプロジェクトは、設計判断が個人の記憶に閉じていることが原因であるケースが多いです。この事例では、認可条件をコード上の仕様コメントとして、データ設計をアーキテクチャドキュメントとして残す運用を徹底しました。開発体制の失敗パターンについては[システム開発の失敗から立て直す方法](https://blog.xincere.jp/articles/system-development-failure-patterns)でも整理しています。 **要件が固まりきらない領域ほど、データ設計で制約を表現する。** 「協力会社が人材情報を編集したら応募内容が変わってしまう」といった問題は、運用ルールやUIの注意書きでは再発します。スキーマとトリガーで表現すれば、アプリ側の実装漏れがあっても壊れません。要件を仕様に落とす工程そのものについては[要件定義の進め方](https://blog.xincere.jp/articles/requirements-definition-process)を参照してください。 ### よくある質問 **Q. 稼働中のサービスを止めずに基盤刷新はできますか。** A. できます。この事例では約11ヶ月にわたり、機能リリースを継続しながらデータアクセス基盤の移行と主キー変更まで実施しました。ただし「一斉に切り替える」やり方では現実的に困難で、呼び出し側を壊さない中間層を用意して段階移行する設計が前提になります。 **Q. 途中でメンバーが入れ替わる体制でも品質は保てますか。** A. 設計判断がドキュメントとコードに残っていれば保てます。この事例では参画時期の重なりが最大2〜3名、1ヶ月だけの参画者もいる体制で、前任の導入した層の上に後任が半年後の移行作業を積み上げています。 **Q. どのくらいの規模・期間の支援ですか。** A. 約11ヶ月、のべ4名(同時稼働は最大2〜3名)です。プロジェクトの規模や費用感の考え方は[システム開発とは](https://blog.xincere.jp/articles/what-is-system-development)で解説しています。 ### 関連する支援領域 - [システム刷新の進め方|検討・計画から移行までの方法](https://blog.xincere.jp/articles/core-system-renewal-guide) — 稼働中システムを止めずに刷新する判断基準 - [業務システム開発の要件定義とは?進め方・手順を7ステップで解説](https://blog.xincere.jp/articles/business-system-development-requirements-definition-steps) — 要件を仕様に落とす工程 - [システム開発の失敗から立て直す方法](https://blog.xincere.jp/articles/system-development-failure-patterns) — 体制・引き継ぎで詰まったときの選択肢 同じように「稼働を止められないプロダクトの基盤を作り替えたい」という課題をお持ちでしたら、[開発のご相談](https://blog.xincere.jp/contacts)からお問い合わせください。現状のコードとデータ構造を確認したうえで、段階移行の設計からご一緒します。

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徐 聖博
株式会社シンシア 代表取締役社長

株式会社シンシア(Xincere, Inc.)代表取締役。中国生まれ・3歳から日本で育ち、日本語・中国語・英語を操るトリリンガル。大学院でコンピュータサイエンス(進化型ニューラルネットワーク)を研究し、GREE・メドレー・カウンティア・Indeed Japan などで検索エンジン開発やスタートアップの立ち上げ・グロースを経験。2020年に「人の価値をテクノロジーで最大化する」という想いでシンシアを創業した。エンジニア歴15年以上、代表でありながらほぼ毎日コードを書く現役エンジニアとして、基幹システム開発からAIエージェント活用まで顧客の事業成長に並走している。創業に込めた思いはnoteの創業ストーリーに綴っている。

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