Vercelがオープンソースのエージェントフレームワーク「eve」と「Passport」を発表——シャドーAI問題にどう向き合うか

AI開発・生成AI活用公開日:2026年6月20日
徐 聖博
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株式会社シンシア 代表取締役社長

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Vercelがオープンソースのエージェントフレームワーク「eve」と「Passport」を発表——シャドーAI問題にどう向き合うか

VercelがLondonのShipイベントで、AIエージェントを手軽に構築・デプロイできるオープンソースフレームワーク「eve」と、組織のIT統制を取り戻すための「Passport」を発表した。実装の手軽さとエンタープライズ統制という、本来なら相反しがちな二つを同時に打ち出した点が興味深い。

出典: Vercel debuts eve open source agent framework, tries to fix shadow AI with Passport

要点 (事実のみ)

  • eveはTypeScriptとMarkdownで記述するエージェントフレームワーク。エージェントはディレクトリ単位で、指示・スキル・モデルプロバイダー・ツール・認証・チャンネル・スケジュールをファイルで定義する。ライセンスはApache 2.0
  • エージェントはデフォルトで分離VMにサンドボックス化され、vercel deploy または npx eve dev でローカル/クラウド両対応。VercelのAI GatewayはAI SDKが対応する全モデルへの単一エンドポイントを提供し、モデル障害時の自動フェイルオーバー機能を持つ
  • Vercel Passportはoid Connect (OpenID Connect) を使い、OktaやMicrosoft EntraなどのIdPと連携。Vercel上でホストされた社員製アプリ・AIエージェントを組織のID管理下に置く機能で、シャドーAI対策として強く要望されていたとVercelは説明する
  • BYOC(Bring Your Own Cloud)はVercelのプラットフォームをAWS顧客自身がプロビジョニングしたインフラ上で動かす構成。ただしAWS IAMロールの引き受けは不可で、OIDCトークンによるポリシー設定に限定される
  • Vercel CTO Malte Ubl氏は「35%以上の利用率でなければVercelの価格に対抗できない」とコスト優位性を主張。同社は昨年Lambdaコストをアイドルインスタンス再利用により最大95%削減したと発表済み

徐 聖博の見解

eveの設計思想は「エージェントのライフサイクル全体をフレームワークが管理し、開発者はパーツを正しい場所に置くだけで動く」という点にある。Vercel CTO自身が「コンテキストウィンドウの圧縮やサンドボックスの仕組みを理解しなくていい」と説明しているとおり、実装の複雑さを徹底的に隠蔽する戦略だ。

私はこれを素直に評価する一方で、実運用に乗せるときの落とし穴として抽象化の裏側が見えなくなることを気にしている。エージェントフレームワークは、うまく動いているあいだは便利だが、トラブルシューティング・コスト管理・セキュリティ監査のタイミングで「中身を知らないまま使っていた」ことが問題化しやすい。今回の発表でも、「Vercel以外のプロバイダーで使う場合もVercelログインが必要になる」というバグ報告が早期ユーザーから上がっており、プラットフォーム依存のリスクは無視できない。

Passportが「シャドーAI」対策として登場したこと自体は非常に現実的な問題提起だ。社員がAIの補助でNext.js+Vercelアプリを個人的に作り、会社のデータが組織のITポリシー外に流れる——これは中小から大企業まで今まさに起きていることだ。私が関わるBtoB開発支援の現場でも、「ちょっと試したアプリがそのまま業務に定着してしまった」というケースは珍しくない。IdPとのOpenID Connect連携でこれを統制する方向性は理にかなっているが、導入・運用コストをどう見積もるかは発注側の意思決定として慎重に検討すべきだろう。

BYOCについては、「AWS IAMロールの引き受けが不可でOIDCトークンに限定」という制約が実際の企業ユースで引っかかる可能性が高い。既存のAWSセキュリティ設計が深い組織ほど、この制約は受け入れ難い。「Vercelがマネジメントベンダーになる」という点も含め、クリティカルなインフラの管理権限をどこに置くか、慎重に評価したほうがいい。

(編集レンズ: 実装・運用視点 / 発注側・中小企業への含意)

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株式会社Atsumell様|サービスを止めずにデータ基盤を刷新したBPマッチングプラットフォームの開発事例

**約11ヶ月・のべ4名のリレーで、機能開発を止めることなく基盤の刷新を完了しました。** 参画時期の重なりは最大2〜3名で、メンバーは1ヶ月の短期集中から5ヶ月の継続稼働までさまざまです。それでも積み上げが効いたのは、**先に入ったメンバーが構造を残していたから**でした。2025年7月に導入された Repository 層の上で、半年後に別のメンバーが移行作業を進めています。認可条件はコード上の仕様コメントとして、スナップショット方式はアーキテクチャドキュメントとして残り、いずれも「引き継いだ人が読んで分かる」形になっています。 この期間に手掛けた業務機能は、協力会社のラベル分類機能、パートナー企業管理画面、CSV による一括招待とデータ出力、案件辞退フロー、ステータス変更通知メールなど多岐にわたります。基盤刷新と機能開発は、どちらかを止めて行ったものではありません。 > 大規模な基盤刷新は「一度止めて作り直す」以外にも方法があります。呼び出し側を壊さない層を挟み、テーブル単位で少しずつ移し、移行と改善を混ぜない。この3つを守れば、リリースを止めずに土台は入れ替えられます。事業を止められないプロダクトほど、この進め方の価値が出ます。 ### この事例からの示唆 **稼働中のサービスでも基盤は入れ替えられる。** 前提は、呼び出し側の契約(戻り値の形)を保つ中間層を挟むこと、移行単位をテーブルや画面まで小さく割ること、そして移行と機能改善を同じコミットに混ぜないことの3点です。この3つが崩れると、不具合が出たときに原因が移行なのか改善なのか切り分けられなくなり、結果として一度止めるしかなくなります。 **メンバーが入れ替わる前提の体制では、成果物より「残る構造」が価値になる。** 短期参画のエンジニアを増やしても積み上がらないプロジェクトは、設計判断が個人の記憶に閉じていることが原因であるケースが多いです。この事例では、認可条件をコード上の仕様コメントとして、データ設計をアーキテクチャドキュメントとして残す運用を徹底しました。開発体制の失敗パターンについては[システム開発の失敗から立て直す方法](https://blog.xincere.jp/articles/system-development-failure-patterns)でも整理しています。 **要件が固まりきらない領域ほど、データ設計で制約を表現する。** 「協力会社が人材情報を編集したら応募内容が変わってしまう」といった問題は、運用ルールやUIの注意書きでは再発します。スキーマとトリガーで表現すれば、アプリ側の実装漏れがあっても壊れません。要件を仕様に落とす工程そのものについては[要件定義の進め方](https://blog.xincere.jp/articles/requirements-definition-process)を参照してください。 ### よくある質問 **Q. 稼働中のサービスを止めずに基盤刷新はできますか。** A. できます。この事例では約11ヶ月にわたり、機能リリースを継続しながらデータアクセス基盤の移行と主キー変更まで実施しました。ただし「一斉に切り替える」やり方では現実的に困難で、呼び出し側を壊さない中間層を用意して段階移行する設計が前提になります。 **Q. 途中でメンバーが入れ替わる体制でも品質は保てますか。** A. 設計判断がドキュメントとコードに残っていれば保てます。この事例では参画時期の重なりが最大2〜3名、1ヶ月だけの参画者もいる体制で、前任の導入した層の上に後任が半年後の移行作業を積み上げています。 **Q. どのくらいの規模・期間の支援ですか。** A. 約11ヶ月、のべ4名(同時稼働は最大2〜3名)です。プロジェクトの規模や費用感の考え方は[システム開発とは](https://blog.xincere.jp/articles/what-is-system-development)で解説しています。 ### 関連する支援領域 - [システム刷新の進め方|検討・計画から移行までの方法](https://blog.xincere.jp/articles/core-system-renewal-guide) — 稼働中システムを止めずに刷新する判断基準 - [業務システム開発の要件定義とは?進め方・手順を7ステップで解説](https://blog.xincere.jp/articles/business-system-development-requirements-definition-steps) — 要件を仕様に落とす工程 - [システム開発の失敗から立て直す方法](https://blog.xincere.jp/articles/system-development-failure-patterns) — 体制・引き継ぎで詰まったときの選択肢 同じように「稼働を止められないプロダクトの基盤を作り替えたい」という課題をお持ちでしたら、[開発のご相談](https://blog.xincere.jp/contacts)からお問い合わせください。現状のコードとデータ構造を確認したうえで、段階移行の設計からご一緒します。

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徐 聖博
株式会社シンシア 代表取締役社長

株式会社シンシア(Xincere, Inc.)代表取締役。中国生まれ・3歳から日本で育ち、日本語・中国語・英語を操るトリリンガル。大学院でコンピュータサイエンス(進化型ニューラルネットワーク)を研究し、GREE・メドレー・カウンティア・Indeed Japan などで検索エンジン開発やスタートアップの立ち上げ・グロースを経験。2020年に「人の価値をテクノロジーで最大化する」という想いでシンシアを創業した。エンジニア歴15年以上、代表でありながらほぼ毎日コードを書く現役エンジニアとして、基幹システム開発からAIエージェント活用まで顧客の事業成長に並走している。創業に込めた思いはnoteの創業ストーリーに綴っている。

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