AI制御層の時代③ 日本の勝ち筋は「業務の中身」にあり
楽天の「Rakuten AI 3.0」騒動が示したのは、日本社会の「問いのズレ」だったのかもしれない。モデルの出自ではなく、モデルを制御する層の中身を誰が握るかこそが本質だという論旨に、私は強く共鳴する。
出典: AI制御層の時代③ 日本の勝ち筋は「業務の中身」にあり
要点 (事実のみ)
- 楽天グループが「国内最大規模」と発表した「Rakuten AI 3.0」が中国DeepSeekのオープンモデルをベースにした二次開発であることが判明し、X上で約3万件の投稿が飛び交う騒動となった。楽天は発表から10日後、DeepSeek採用を公式に認めた
- MicrosoftはAgent 365(ユーザー1人あたり月15ドル)を今年5月に正式提供開始。自らを「エージェントのためのコントロールプレーン」と公式に名乗り、他社製エージェント(AWS・Google・Salesforce上のものも含む)を一元管理する台帳・ID・権限・監視の仕組みを提供する
- Palantirの「オントロジー」は「データ、ロジック、アクション、セキュリティの四位一体」と公式文書で説明しており、その上でAIモデルはGPT・Gemini・Claudeを問わず交換可能な部品として扱われる
- 日本企業の主要なAIモデルのうち約6割がDeepSeekやQwenといった中国オープンモデルをベースにした二次開発だとする報道が引用されている
- みずほフィナンシャルグループはアリババQwenをベースにした金融特化LLMで銀行実務の正答率トップ級の性能をオンプレミス環境で実現したと発表したが、炎上どころかほとんど話題にならなかった
徐 聖博の見解
この記事が指摘する「器と中身」の区別は、私が日々の受託開発とAIエージェント事業で実感している構造そのものだ。
私たちが顧客企業のシステムを設計するとき、難しいのは技術選定ではない。「この会社における『正常な承認』とは何か」「どこまでエージェントに委ねてよいか」という業務の意味定義こそが、最も時間と知見を要する工程だ。AgentフレームワークやLLMはオープンソースで調達できても、業務のポリシーと評価基準は、現場に入り込んで一緒に作るしかない。Palantirがフォワード・デプロイド・エンジニア(FDE)モデルで高収益を維持し続けてきた理由は、ここにある。
記事が「日本のIT産業は業務知識を個社ごとの受託という一品物に注ぎ込み、再利用可能な資産に昇華してこなかった」と指摘する点は、耳が痛い。私たちも受託開発を主要な収益源として持つ以上、この問いは他人事ではない。ただ、私が今AIエージェント事業に注力するのは、この「一品物のサイクル」から抜け出すための模索でもある。個社案件で得た業務知識を、再利用可能な設計パターンや評価基準として蓄積し、次の顧客の立ち上がりを速くする——その積み重ねがいずれ「業界特化の中身」になる道筋を、私は信じている。
一方で、記事が「業界共通のオントロジーは一社だけでは作れない」と述べる点には、現実的な重みを感じる。競合同士がデータの定義を持ち寄るには業界団体や規制当局の関与が要るという指摘は正しい。ただし、その合意形成を待ってから動き始める余裕もない。先に現場で作り込みを進め、事実上の標準になってから業界に持ち込む、というシーケンスの方が現実的ではないかと私は見ている。
「国産モデルか外国モデルか」ではなく「業務の中身を誰が握るか」——この問いの更新は、規模の大小を問わずすべての開発者・事業者に向けられている。
(編集レンズ: 実装・運用視点 / 発注側・中小企業への含意 / AIを「作る側」の目線)