生成AIガバナンスの本質は「説明できること」──OWASP LLMリスクとレッドチーミングが示す設計の方向

AI開発・生成AI活用公開日:2026年6月23日
徐 聖博
徐 聖博

株式会社シンシア 代表取締役社長

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生成AIガバナンスの本質は「説明できること」──OWASP LLMリスクとレッドチーミングが示す設計の方向

生成AIの業務活用が加速する中、ある調査では70%の企業がセキュリティを最大の課題と答えている。しかし本当に怖いのは「事故が起きること」ではなく、「何が起きたか説明できないこと」だ、というのが本セッションの核心だった。

出典: 事故よりも怖い生成AIの「説明できないリスク」──OWASPとレッドチーミングで実現するガバナンス設計

要点 (事実のみ)

  • ある調査では、生成AIに関してセキュリティを最大の課題と回答した企業は70%に達する
  • OWASPが公開する「OWASP Top 10 for LLM Apps」は、プロンプトインジェクション・機密情報の漏えい・データおよびモデルのポイズニング・過度な自律性(Excessive Agency)など10項目のLLMアプリケーション特有のリスクを列挙している
  • 10項目のうち7項目は、セキュリティ対策だけでなくガバナンスの整備も組み合わせなければ対処できないとナレッジコミュニケーション代表取締役CEO兼CTO奥沢明氏は指摘
  • ガバナンスとは「ビジネスにおける生成AI活用の公平性・包括性・透明性を担う方針・統制の仕組み」と定義されている
  • ガイドラインは「実装可能なレベルで計画すること」が重要で、形骸化を防ぐために実装まで見据えた策定が求められるとされた
  • 従来の侵入テストを発展させた「レッドチーム」を継続的なループとして組み込む運用が求められるという

徐 聖博の見解

「事故が説明できない」という問題の立て方は、私が日頃の受託開発やAIエージェントのPoC支援で感じていることと重なる。LLMを業務システムに組み込んだ瞬間、従来のアプリケーションとは異なる種類の不確実性が入り込む。コードの挙動は静的解析やテストで担保できるが、LLMの出力は同じ入力でも変わりうるし、プロンプトインジェクションのような攻撃は「正常なHTTPリクエスト」として届く。これは既存の監視・ログ設計では素通しになりやすい。

OWASP Top 10 for LLM Appsの10項目中7項目がガバナンス絡みというのは、数字として腹落ちする。プロンプト設計や出力制御は技術的に対処できても、「このモデルはどの範囲の判断を自律的に行ってよいか」「誰がその決定に責任を持つか」はコードで書けない問いだからだ。Excessive Agency(過度な自律性)はその典型で、エージェントが外部APIを叩く権限をどこまで与えるかは、システム設計よりも先に組織の意思決定として決まっていなければならない。

ガイドラインが形骸化するという指摘にも同意する。私が見てきた範囲では、「AIガイドライン策定プロジェクト」が成果物を納品して終わるケースは多い。問題は、そのガイドラインが実際のシステム設計・レビュー・デプロイフローに組み込まれているかどうかだ。「実装まで落とし込めるか」という問いは、ガイドラインをどの粒度で書くかという技術的な問いでもある。抽象度が高すぎると現場エンジニアが判断できず、細かすぎると陳腐化が速い。そのバランスを誰が維持し続けるか、という運用設計こそが難しい部分だと思っている。

(編集レンズ: 実装・運用視点、発注側 / 中小企業 / 開発実務への含意)

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株式会社Atsumell様|サービスを止めずにデータ基盤を刷新したBPマッチングプラットフォームの開発事例

**約11ヶ月・のべ4名のリレーで、機能開発を止めることなく基盤の刷新を完了しました。** 参画時期の重なりは最大2〜3名で、メンバーは1ヶ月の短期集中から5ヶ月の継続稼働までさまざまです。それでも積み上げが効いたのは、**先に入ったメンバーが構造を残していたから**でした。2025年7月に導入された Repository 層の上で、半年後に別のメンバーが移行作業を進めています。認可条件はコード上の仕様コメントとして、スナップショット方式はアーキテクチャドキュメントとして残り、いずれも「引き継いだ人が読んで分かる」形になっています。 この期間に手掛けた業務機能は、協力会社のラベル分類機能、パートナー企業管理画面、CSV による一括招待とデータ出力、案件辞退フロー、ステータス変更通知メールなど多岐にわたります。基盤刷新と機能開発は、どちらかを止めて行ったものではありません。 > 大規模な基盤刷新は「一度止めて作り直す」以外にも方法があります。呼び出し側を壊さない層を挟み、テーブル単位で少しずつ移し、移行と改善を混ぜない。この3つを守れば、リリースを止めずに土台は入れ替えられます。事業を止められないプロダクトほど、この進め方の価値が出ます。 ### この事例からの示唆 **稼働中のサービスでも基盤は入れ替えられる。** 前提は、呼び出し側の契約(戻り値の形)を保つ中間層を挟むこと、移行単位をテーブルや画面まで小さく割ること、そして移行と機能改善を同じコミットに混ぜないことの3点です。この3つが崩れると、不具合が出たときに原因が移行なのか改善なのか切り分けられなくなり、結果として一度止めるしかなくなります。 **メンバーが入れ替わる前提の体制では、成果物より「残る構造」が価値になる。** 短期参画のエンジニアを増やしても積み上がらないプロジェクトは、設計判断が個人の記憶に閉じていることが原因であるケースが多いです。この事例では、認可条件をコード上の仕様コメントとして、データ設計をアーキテクチャドキュメントとして残す運用を徹底しました。開発体制の失敗パターンについては[システム開発の失敗から立て直す方法](https://blog.xincere.jp/articles/system-development-failure-patterns)でも整理しています。 **要件が固まりきらない領域ほど、データ設計で制約を表現する。** 「協力会社が人材情報を編集したら応募内容が変わってしまう」といった問題は、運用ルールやUIの注意書きでは再発します。スキーマとトリガーで表現すれば、アプリ側の実装漏れがあっても壊れません。要件を仕様に落とす工程そのものについては[要件定義の進め方](https://blog.xincere.jp/articles/requirements-definition-process)を参照してください。 ### よくある質問 **Q. 稼働中のサービスを止めずに基盤刷新はできますか。** A. できます。この事例では約11ヶ月にわたり、機能リリースを継続しながらデータアクセス基盤の移行と主キー変更まで実施しました。ただし「一斉に切り替える」やり方では現実的に困難で、呼び出し側を壊さない中間層を用意して段階移行する設計が前提になります。 **Q. 途中でメンバーが入れ替わる体制でも品質は保てますか。** A. 設計判断がドキュメントとコードに残っていれば保てます。この事例では参画時期の重なりが最大2〜3名、1ヶ月だけの参画者もいる体制で、前任の導入した層の上に後任が半年後の移行作業を積み上げています。 **Q. どのくらいの規模・期間の支援ですか。** A. 約11ヶ月、のべ4名(同時稼働は最大2〜3名)です。プロジェクトの規模や費用感の考え方は[システム開発とは](https://blog.xincere.jp/articles/what-is-system-development)で解説しています。 ### 関連する支援領域 - [システム刷新の進め方|検討・計画から移行までの方法](https://blog.xincere.jp/articles/core-system-renewal-guide) — 稼働中システムを止めずに刷新する判断基準 - [業務システム開発の要件定義とは?進め方・手順を7ステップで解説](https://blog.xincere.jp/articles/business-system-development-requirements-definition-steps) — 要件を仕様に落とす工程 - [システム開発の失敗から立て直す方法](https://blog.xincere.jp/articles/system-development-failure-patterns) — 体制・引き継ぎで詰まったときの選択肢 同じように「稼働を止められないプロダクトの基盤を作り替えたい」という課題をお持ちでしたら、[開発のご相談](https://blog.xincere.jp/contacts)からお問い合わせください。現状のコードとデータ構造を確認したうえで、段階移行の設計からご一緒します。

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徐 聖博
株式会社シンシア 代表取締役社長

株式会社シンシア(Xincere, Inc.)代表取締役。中国生まれ・3歳から日本で育ち、日本語・中国語・英語を操るトリリンガル。大学院でコンピュータサイエンス(進化型ニューラルネットワーク)を研究し、GREE・メドレー・カウンティア・Indeed Japan などで検索エンジン開発やスタートアップの立ち上げ・グロースを経験。2020年に「人の価値をテクノロジーで最大化する」という想いでシンシアを創業した。エンジニア歴15年以上、代表でありながらほぼ毎日コードを書く現役エンジニアとして、基幹システム開発からAIエージェント活用まで顧客の事業成長に並走している。創業に込めた思いはnoteの創業ストーリーに綴っている。

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