OracleがGeminiをERP・HCMに統合——AIの主導権が「モデル」から「業務の入口」へ移った

AI開発・生成AI活用公開日:2026年8月3日
徐 聖博
徐 聖博

株式会社シンシア 代表取締役社長

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  1. 要点 (事実のみ)
  2. 主導権はモデルから「業務の入口」へ移っている
  3. 開発会社・SIerにとって、受託の付加価値はどこに残るか
  4. 発注側 (ERPを使っている企業) が今から確認すること
  5. AIの前に、基盤が揃っているか

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OracleがGoogleのGeminiを自社のエンタープライズアプリ全体に統合すると発表した。ERPやHCMにAIが標準で載ってくる流れである。開発を生業にしている側にとって重要なのは「Geminiが載る」ことではなく、AIをどこで持つかの主導権がSaaSベンダー側に移りつつあるという点だ。受託開発・SIerの事業判断として何が変わるかを整理する。

要点 (事実のみ)

  • Oracleが Google Cloud とのパートナーシップを拡大し、Gemini モデルを自社のエンタープライズアプリケーション全体へ統合すると発表した (2026年7月31日報道)。
  • 統合先は Oracle AI Agent Studio for Fusion Applications、Oracle Fusion Applications、NetSuite、および Fusion Cloud の ERP / HCM / SCM / CX。
  • 提供されるモデルは Gemini 3.1 Flash Lite (効率と価格性能を重視) と Gemini 3.5 Flash (複雑な推論や、動画・プレゼン作成を含む専門的タスク向け)。マルチモーダル機能が拡張される。
  • 既存の OCI Enterprise AI との統合として位置づけられ、業務内容に応じて最適な価格性能のモデルを選べる「モデル選択の柔軟性」が強調されている。
  • Google Cloud VP の Satish Thomas 氏は、アプリケーションとエージェントのワークフロー内で Gemini を使いやすくする設計だと述べている。Oracle EVP の Chris Leone 氏は、顧客の選択肢が増えることで複雑な業務課題に対応するエージェントを構築できるとしている。

主導権はモデルから「業務の入口」へ移っている

この手の発表を「OracleがGeminiを採用した」というモデル選定の話として読むと、意味を取り違える。

注目すべきは、統合先が Agent Studio と Fusion Applications、つまり業務データと業務プロセスを握っている場所であることだ。ERP・HCM・SCM・CXは、企業の受注・在庫・人事・顧客のデータが集まる。そこにAIエージェントを構築する環境が標準で載るということは、「AIを使うために、まずどこに行くか」の入口をERPベンダーが押さえに来たということである。

モデル自体は差し替え可能な部品になった。実際、Oracleは「モデル選択の柔軟性」を売り文句にしている。柔軟に選べるということは、モデルで囲い込めないことを認めているのと同義だ。ロックインの主戦場は、モデルからワークフローとデータに移っている。

開発会社・SIerにとって、受託の付加価値はどこに残るか

同業として率直に言えば、この流れは受託の一部を確実に削る。「ERPのデータを使って社内問い合わせに答えるチャットを作る」といった案件は、標準機能でできるようになれば発注されない。

一方で、残る領域ははっきりしている。私が見る限り3つある。

1. ERPの外にあるデータとの接続。 現場のExcel、メール、紙、業界固有の外部システム——企業の業務は ERP の中だけで完結していない。標準搭載のエージェントが触れるのは ERP が持っているデータだけである。業務の実態と、ERPが把握している範囲のギャップこそが受託の領域になる。

2. 業務プロセスそのものの設計。 どの業務をエージェントに任せ、どこで人が判断するかは、製品を導入しただけでは決まらない。この工程は「使われないシステム」が生まれる要件定義の失敗で書いた構造と同じで、機能があることと業務に乗ることは別問題だ。

3. 権限とデータガバナンスの設計。 ERPのデータに触れるエージェントは、権限設計を誤ると事故が大きい。人事評価や与信情報を、権限のない社員の質問に対する回答根拠として引いてしまう、といった事故は設計を省略すると簡単に起きる。ここは社内RAG構築とは?費用の内訳と失敗しない進め方で書いたとおり、費用の大半が集中する箇所でもある。

逆に言えば、モデルを扱えることや、エージェントを実装できること自体は、もう差別化にならない。標準機能として降りてくるからだ。差別化が残るのは、顧客の業務を理解して「何を任せ、何を任せないか」を決められるかどうかである。

発注側 (ERPを使っている企業) が今から確認すること

ERPベンダーがAIを載せてくると、「自社で作るべきか、標準機能を待つべきか」という判断が発生する。順番はこうだ。

  1. やりたいことが、ERPが持っているデータだけで完結するか。 完結するなら、標準機能のロードマップを確認してから作るかを決める。作ってから標準搭載されるのが最も無駄
  2. 完結しないなら、不足しているデータはどこにあるか。 ERPの外にあるなら、接続の設計が主要な工数になる
  3. その業務の判定基準を人の言葉で書けるか。 書けないなら、製品が何であれ動かない (AI PoCの進め方5ステップ)
  4. 失敗したときに人が拾える工程か。 ERPのデータを更新する処理を最初に任せるのは避ける

1番目は特に重要である。ベンダーの標準ロードマップと重なる機能を自前で作ると、1〜2年後に二重投資になる。相談を受けたときも、まずここを確認している。

AIの前に、基盤が揃っているか

もう一点、この発表が前提にしていることがある。ERPが入っていて、そこにデータが集まっている企業でなければ、この話は始まらない。

日本の中堅・中小企業では、受注はメール、在庫はExcel、原価は担当者の頭の中、という状態が珍しくない。この状態でAIを導入しても、参照するデータが存在しない。順番としては業務基盤の整備が先になる (AIはERPと業務基盤なしには機能しない業務の棚卸しのやり方)。

華やかな発表ほど、成立条件は地味である。ERPベンダーがAIを載せる競争が進むほど、「そもそも自社のデータはどこにあるか」を把握している企業とそうでない企業の差が開いていく、というのが私の見立てだ。

自社の業務のどこからAIを差し込むべきか、標準機能を待つべきか自前で作るべきかの切り分けでお困りなら、開発のご相談からお問い合わせいただければ、現状のシステム構成を確認したうえでご一緒する。

出典: Oracle integrates Google's Gemini AI models into enterprise apps (ITPro, 2026-07-31)

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株式会社Cloverse様|アパレル向けAIクリエイティブ基盤「Clovia Enterprise」を4名体制で開発支援

**2026年2月の開発着手から約5.5ヶ月で、アパレル企業向けAIクリエイティブ基盤としてプレスリリース公開まで到達しました(2026年7月29日発表)。** Cloverse様の発表によれば、Clovia Enterprise は PUMA社・ルック社をはじめとする**30社以上のアパレルブランドとの検証**を経ており、現在は先行導入企業(Founding Partner)を限定募集する段階に入っています。 開発規模は次のとおりです(2026年7月29日時点、リポジトリ実測値)。 | 指標 | 実績 | |---|---| | 開発体制 | エンジニア4名 | | 開発期間 | 2026年2月13日〜(継続中) | | コミット数 | 約1,480 | | プルリクエスト | 373本 | | 対応イシュー | 428件 | | 実装計画ドキュメント | 162本 | | データモデル | 83テーブル | ### この事例からの示唆 **生成AIプロダクトの難所は、モデルではなく業務側にある。** 画像を1枚生成すること自体は、いまや誰でもできます。事業として成立させるために必要だったのは、マスター管理・制作進行・レビュー・権限・課金・非同期処理といった、業務を回すための地味な設計でした。83テーブルという規模は、その事実を素直に表しています。 **未知の業界のプロダクトは、業務を理解した側が設計しないと形にならない。** アパレルEC制作の工程を知らないまま「AIで画像生成する機能」を作っても、現場では使われません。ヒアリング・R&D・プロトタイプ・提案までを開発チームが担ったのは、そうしないと仕様が決まらない領域だったからです。この構造は[「使われないシステム」が生まれる要件定義の失敗](https://blog.xincere.jp/articles/why-unused-systems-are-born-requirements-definition)とちょうど裏返しの関係にあります。 **モデル選定に正解が無い領域では、検証を設計プロセスに組み込む。** どの生成モデルを使うかは半年で変わります。だからこそ、モデルを差し替えられる構造と、検証結果を機能設計に反映し続ける進め方の両方が必要でした。 ### よくある質問 **Q. 生成AIを使ったプロダクトの開発は、通常のシステム開発と何が違いますか。** A. 最も違うのは、着手時点で仕様が確定できない点です。どのモデルがどの品質を出せるかは検証しないと分からないため、R&Dとプロトタイプを設計工程に組み込む必要があります。一方で、組織・権限・課金・非同期処理といった土台は通常のSaaS開発と同じ設計が求められます。 **Q. 業界知識がない領域でも開発支援を依頼できますか。** A. できます。この事例ではアパレルEC制作の業務理解から入り、ヒアリングとプロトタイプを通じて要件そのものを一緒に作りました。仕様が固まっていない段階からのご相談のほうが、むしろ手戻りが少なくなります。 **Q. どのくらいの体制・期間の支援ですか。** A. エンジニア4名、2026年2月から継続中です。プレスリリース公開までは約5.5ヶ月でした。規模や費用感の考え方は[システム開発とは](https://blog.xincere.jp/articles/what-is-system-development)で解説しています。 ### 関連する支援領域 - [AIシステム開発とは?開発の流れ・費用相場・失敗しない進め方](https://blog.xincere.jp/articles/ai-system-development-guide) — 生成AIプロダクト開発の全体像 - [AI PoCの進め方5ステップ|「PoC止まり」を防ぎ本番導入につなげる実践手順](https://blog.xincere.jp/articles/ai-poc-how-to-proceed) — 検証を本番に接続する設計 - [FDE(Forward Deployed Engineer)が示す、上流から伴走できるエンジニアの価値](https://blog.xincere.jp/articles/fde-forward-deployed-engineer-upstream-value) — 本事例の進め方の背景 生成AIを使った新規プロダクトの立ち上げや、仕様が固まりきっていない段階からの開発支援については、[開発のご相談](https://blog.xincere.jp/contacts)からお問い合わせください。 **出典:** [アパレル企業向けAIクリエイティブ基盤「Clovia Enterprise」提供開始(株式会社Cloverse / PR TIMES, 2026-07-29)](https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000024.000139250.html)

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徐 聖博
株式会社シンシア 代表取締役社長

株式会社シンシア(Xincere, Inc.)代表取締役。中国生まれ・3歳から日本で育ち、日本語・中国語・英語を操るトリリンガル。大学院でコンピュータサイエンス(進化型ニューラルネットワーク)を研究し、GREE・メドレー・カウンティア・Indeed Japan などで検索エンジン開発やスタートアップの立ち上げ・グロースを経験。2020年に「人の価値をテクノロジーで最大化する」という想いでシンシアを創業した。エンジニア歴15年以上、代表でありながらほぼ毎日コードを書く現役エンジニアとして、基幹システム開発からAIエージェント活用まで顧客の事業成長に並走している。創業に込めた思いはnoteの創業ストーリーに綴っている。

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