中小機構2024年DX調査を読む|取組率42%、成果81.6%、でも「人材不足は解消しない」が46.6%
独立行政法人 中小企業基盤整備機構(中小機構)が令和6年12月に公表した「中小企業のDX推進に関する調査(2024年)」を読んだ。結論から言うと、数字は前進したが、中小企業DXは「人を減らす道具」から「人をエンパワーする道具」へと、期待のされ方が転換しつつあるフェーズに見える。出典は中小機構 公式PDF。
調査の要点
- 調査主体: 独立行政法人 中小企業基盤整備機構、令和6年(2024年)10月29日〜11月5日、Webアンケート、回答1,000社(製造業50%、その他50%)、個人事業主除く
- DXの理解度: 「理解+ある程度理解」49.2%(前回49.1%、横ばい)
- DX必要性(理解者中): 73.2%
- 取組み状況: 既に取組+検討中 = 42.0%(前回31.2%から+10.8pt)。一方「取組む予定はない」も30.9%残る
- 進捗段階(取組企業中): デジタイゼーション 35.7%、デジタライゼーション 28.6%、デジタルトランスフォーメーション 28.1%
- 具体的取組内容: 文書電子化・ペーパレス化 57.6%、営業活動オンライン化 37.6%、ホームページ作成 36.4%、クラウドサービス活用 35.9%、AI活用 14.3%
- DXの成果: 「成果出ている+ある程度」81.6%(前回76.7%、+4.9pt)。20人以下企業でも77.3%(+9.9pt)
- 主要課題: IT人材不足 25.4%、DX推進人材不足 24.8%、予算確保 24.5%、効果が見えない 21.0%、何から始めてよいか分からない 19.9%、情報セキュリティ確保 14.0%(前回+3.4pt)
- 人材不足解消への期待: 人手不足企業(452社)のうち、「解消される+ある程度解消」12.6%、「あまり/解消されない」46.6%
- 期待する支援策: 補助金・助成金 41.6%(前回-7.7pt)、専門家派遣 16.4%(前回+3.4pt)
出典: 中小企業のDX推進に関する調査(2024年) アンケート調査報告書 — 独立行政法人 中小企業基盤整備機構、令和6年12月
私の見解
この調査で私が注目したのは3つの数字である。
1つ目。「DXで人材不足が解消される」と思う企業は12.6%にとどまり、「解消されると思わない」が46.6%だった点。 これは前向きに受け止めるべき結果だと私は考える。数年前まで、DXは「人手不足を解決する魔法」のように語られてきた。だがその語り口は、現場で実装してきた側からすると無責任だった。AIで業務を自動化すれば人が要らなくなる、という論調は運用フェーズで必ず破綻する。SaaSの設定、業務ルールの言語化、例外処理、データ品質の維持、社内教育—これらすべてが新しい仕事として湧いてくるからである。人手不足の総量が減るのではなく、必要なスキルセットが変わるだけだ。中小企業の現場がそのことに気付き始めた、というのが46.6%の意味だと読んだ。
2つ目。補助金ニーズが7.7pt下がり、専門家派遣ニーズが3.4pt上がった点。 これは支援策のフェーズが「お金」から「知見」へ移りつつあるサインに見える。補助金は最初の一歩を踏み出させるには有効だが、二歩目・三歩目に進むには「何をどう設計するか」を一緒に考えてくれる相手が必要になる。中小企業が「やってみた → 思ったほど進まなかった → 次に必要なのはお金じゃなく相談相手だ」と気付いた、ということだろう。私自身、中小企業向けに開発支援と組織構築支援を提供してきた立場として、この変化は現場の肌感覚と一致する。
3つ目。具体的取組内容のトップが「文書電子化・ペーパレス化」57.6%で、AI活用は14.3%にとどまっている点。 一見すると「DXと言いながら結局ペーパレスか」と冷笑したくなる数字だが、私は冷笑しない。実装者の経験からすると、紙とハンコの業務フローを残したままAI導入をしても、AIの判断結果を最終的に紙に出力して回覧するという意味不明な状態になる。先にデジタイゼーションを完了させておかないと、次のレイヤー(プロセス全体のデジタライゼーション、ビジネスモデルのDX)に進めない。順序として正しいのである。問題はその順序の上に積み上げる戦略がないまま、ペーパレスだけで止まる企業が一定数いることだ。
中小企業・開発実務への示唆
レポートで「何から始めてよいか分からない」が19.9%、「具体的な効果や成果が見えない」が21.0%出ている。これは発注側の課題そのものである。中小企業が外部の開発会社や支援会社に発注するとき、本当に必要なのは「何を作るか」を決めてくれる相手ではなく、「何から始めるか」を一緒に整理してくれる相手だと、この数字は示している。
具体的には、(1) 自社の現在地(デジタイゼーション/デジタライゼーション/DXのどの段階か)を見立て、(2) 直近6か月で動かせる現実的な一歩を定義し、(3) その一歩を進めるための予算と人員の現実解を提示する—この3つを伴走できる相手かどうかが、選定基準になるべきだ。価格と機能の比較表だけで開発会社を選んでも、19.9%の「何から始めるか分からない」は解消しない。基本的な進め方はDX推進の進め方を7ステップで解説に、つまずきやすいポイントは中小企業のDXが進まない5つの理由と、今すぐ動ける解決策に整理している。
また、人材不足解消の期待感が12.6%しかないという結果は、開発支援を提供する側にも示唆を与える。「導入すれば人が要らなくなります」という売り文句は、もう中小企業の経営者には響かない。代わりに、「導入することで、今いる人材がより付加価値の高い業務に時間を使えるようになる」「属人化していた業務を仕組み化し、退職リスクを下げる」という説明の方が、現場感覚に合う。後者の文脈では属人化をシステムで解消する方法で書いたとおり、システム化の真の効果は「人を減らす」ではなく「特定の人への依存を、誰でも触れる仕組みに置き換える」ことにある。
まとめ
- 中小企業DXは「やる側」が42%に達し、成果実感も81.6%まで上がった。数字の上では確実に前進している
- 一方で、「DXで人手不足が解消できる」期待感は12.6%にとどまり、46.6%が「解消されない」と回答した。DXの語られ方が「人を減らす道具」から「人をエンパワーする道具」へと変わるフェーズに入った
- 補助金ニーズが下がり、専門家派遣ニーズが上がったのは、フェーズが「お金」から「知見」へ移行している証拠
- 発注側に必要なのは、機能比較表より「何から始めるか」を一緒に整理してくれる相手
参考:
- 中小企業のDX推進に関する調査(2024年) アンケート調査報告書 — 独立行政法人 中小企業基盤整備機構、令和6年12月
- 中小機構 公式サイト