AIエージェント全社導入で先に効くのは基幹統合|UKGの387アプリ・12,000エージェントを読む

AI開発・生成AI活用公開日:2026年9月3日
徐 聖博
徐 聖博

株式会社シンシア 代表取締役社長

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  1. 出典記事の要点
  2. 順番が本体である
  3. 12,000という数字をどう読むか
  4. 自社で同じものを作るとしたら、どこが難所か
  5. 開発会社の事業判断にどう効くか

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UKG の CIO が「AIエージェントを12,000超つくった」と語った Fortune の記事を読んだ。数を誇る話に見えるが、私が注目したのはその手前で何をやったかである。この記事では、全社にAIエージェントを展開する前に基幹システムとデータ基盤で何を片づけているのか、そして開発を生業にしている会社がこの事例から何を仕込むべきかを、受託開発とAIエージェント事業をやっている立場から整理する。

出典記事の要点

  • UKG の CIO は Prakash "PK" Kota 氏。2025年4月に Autodesk から着任した。
  • 着任から6か月で ERP を Microsoft に、CRM を Salesforce に集約し、複数のデータウェアハウスを統合した。最初の90日ではレガシーの Kronos 側と Ultimate Software 側にまたがっていた技術部門を中央に寄せている。
  • 従業員14,000人規模に対し、社内AIアプリを387、Microsoft / Google Gemini / OpenAI ChatGPT にまたがるAIエージェントを12,000超つくったとしている。
  • カスタマーサービスへの入電の27%を自律的に処理し、月あたり8,500時間の生産性効果を測定していると述べている。
  • 新たに解決した顧客課題から約300件のケーススタディが継続的に生成され、300のシグナルを見るプロペンシティモデルがアップセル機会を特定しているという。
  • Kota 氏は「AI時代には誰もが働き方の再設計を語っている。従業員と労働者はどう共存するのか。HR techは巨大な投資領域になる」と語っている。

順番が本体である

この事例で再現性があるのは、エージェントの数ではなく順番だ。ERPとCRMを一本に寄せ、データウェアハウスを統合し、そのうえで全社にAIを配った。逆順ではない。

エージェントは結局のところ、読める状態のデータと、叩ける状態のAPIの上でしか動かない。基幹が二重化していて、マスタの定義が事業部ごとに違い、DWHが3つあるまま「エージェントを入れましょう」と言えば、作るのはエージェントではなく、システム間の差異を吸収するためのその場しのぎの接着剤である。接着剤は動く。しかし壊れる。そして誰も直せない。私が受託の現場で何度も見てきたのは、この接着剤が数年後に技術負債として請求書になって戻ってくる光景だ。UKGは合併に由来する二重構造を先に潰した。ここが一番地味で、一番効いている。

12,000という数字をどう読むか

「12,000エージェント」を額面通りに受け取るべきではない。従業員14,000人でエージェント12,000超なら、一人あたりほぼ1個。これは中央の開発チームが企画・設計・運用しているプロダクションのエージェント群ではなく、業務担当者が自分の手元でつくった小さな自動化の総数と読むのが自然だ。実際、Microsoft / Gemini / ChatGPT の3系統にまたがっていると明記されている。ガバナンスの効いた統一基盤に載っている数ではない。

だから評価すべき指標は数ではなく、記事中にある「入電の27%」と「月8,500時間」のほうだ。業務のアウトカムに接続された数字が出ていることが、この事例の質を担保している。作る側の実感として、社内AI施策で一番難しいのは作ることではなく、効果を業務KPIに接続して測り続けることである。ツール数はダッシュボードにすぐ出るが、業務効果は誰かが定義しないと永久に出てこない。数を追う社内施策は、たいてい測定を後回しにしたまま終わる。

自社で同じものを作るとしたら、どこが難所か

私たちがこの構成を顧客に納めることを考えると、難所は明確に3つある。

第一に、基幹統合そのもの。ERP/CRMの集約は、技術課題である以上に、どの部門の業務定義を捨てるかという意思決定の課題だ。6か月で片づいたという記述の裏には、相当量の「やらないことを決める」作業があったはずである。ここを外部ベンダーだけで進めることはできない。

第二に、モデルではなくコストと運用。3系統のモデルにまたがる12,000のエージェントは、トークン予算・レイテンシ・障害時の切り分け・モデル更新時の回帰、すべてが分散する。誰がどのエージェントのオーナーなのかが曖昧なまま増えると、半年後には「動いているが誰も責任を持てないもの」の山になる。私はテクノロジー選定でコストと長期運用を優先する立場をとってきたが、この構成はまさにそこが勝負どころだ。

第三に、人材設計。業務担当者が自分でエージェントをつくれる状態は、教育と権限設計の結果であって、ツールを配れば生まれるものではない。全社展開の実務の大半は、技術ではなくこちら側にある。

開発会社の事業判断にどう効くか

同業の経営・事業責任者の立場で読むと、この記事は受注機会の輪郭を示している。顧客が「AIエージェントを入れたい」と言ってきたとき、そのまま作ると接着剤の仕事になり、単価は上がらず、保守で消耗する。一方で「エージェントを入れる前に、基幹とデータをこの順で整える」という提案ができれば、案件は基幹統合・データ基盤の再設計という上流に移る。UKGがやったのは、まさにその上流である。

内製と外注の切り分けも同じ線で引ける。業務担当者がつくる小さなエージェントは内製に寄せるほうが速い。統合と基盤と、権限・コスト・監視のガバナンスは外部の設計力が効く。この2階建てを最初に顧客と合意しておくことが、後から「あのエージェントは誰が直すのか」という問いで揉めないための唯一の方法だと私は考えている。

エージェントの数を提案書に書くのはやめたほうがいい。書くべきなのは、どの業務のどの指標を、いつまでに、どれだけ動かすかである。UKGが27%と8,500時間を出してきたのは、そこを先に決めていたからだ。

出典: UKG's CIO says HR tech is AI's next big bet. Employees have already launched 387 AI tools and over 12,000 agents

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徐 聖博株式会社シンシア 代表取締役社長

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**約11ヶ月・のべ4名のリレーで、機能開発を止めることなく基盤の刷新を完了しました。** 参画時期の重なりは最大2〜3名で、メンバーは1ヶ月の短期集中から5ヶ月の継続稼働までさまざまです。それでも積み上げが効いたのは、**先に入ったメンバーが構造を残していたから**でした。2025年7月に導入された Repository 層の上で、半年後に別のメンバーが移行作業を進めています。認可条件はコード上の仕様コメントとして、スナップショット方式はアーキテクチャドキュメントとして残り、いずれも「引き継いだ人が読んで分かる」形になっています。 この期間に手掛けた業務機能は、協力会社のラベル分類機能、パートナー企業管理画面、CSV による一括招待とデータ出力、案件辞退フロー、ステータス変更通知メールなど多岐にわたります。基盤刷新と機能開発は、どちらかを止めて行ったものではありません。 > 大規模な基盤刷新は「一度止めて作り直す」以外にも方法があります。呼び出し側を壊さない層を挟み、テーブル単位で少しずつ移し、移行と改善を混ぜない。この3つを守れば、リリースを止めずに土台は入れ替えられます。事業を止められないプロダクトほど、この進め方の価値が出ます。 ### この事例からの示唆 **稼働中のサービスでも基盤は入れ替えられる。** 前提は、呼び出し側の契約(戻り値の形)を保つ中間層を挟むこと、移行単位をテーブルや画面まで小さく割ること、そして移行と機能改善を同じコミットに混ぜないことの3点です。この3つが崩れると、不具合が出たときに原因が移行なのか改善なのか切り分けられなくなり、結果として一度止めるしかなくなります。 **メンバーが入れ替わる前提の体制では、成果物より「残る構造」が価値になる。** 短期参画のエンジニアを増やしても積み上がらないプロジェクトは、設計判断が個人の記憶に閉じていることが原因であるケースが多いです。この事例では、認可条件をコード上の仕様コメントとして、データ設計をアーキテクチャドキュメントとして残す運用を徹底しました。開発体制の失敗パターンについては[システム開発の失敗から立て直す方法](https://blog.xincere.jp/articles/system-development-failure-patterns)でも整理しています。 **要件が固まりきらない領域ほど、データ設計で制約を表現する。** 「協力会社が人材情報を編集したら応募内容が変わってしまう」といった問題は、運用ルールやUIの注意書きでは再発します。スキーマとトリガーで表現すれば、アプリ側の実装漏れがあっても壊れません。要件を仕様に落とす工程そのものについては[要件定義の進め方](https://blog.xincere.jp/articles/requirements-definition-process)を参照してください。 ### よくある質問 **Q. 稼働中のサービスを止めずに基盤刷新はできますか。** A. できます。この事例では約11ヶ月にわたり、機能リリースを継続しながらデータアクセス基盤の移行と主キー変更まで実施しました。ただし「一斉に切り替える」やり方では現実的に困難で、呼び出し側を壊さない中間層を用意して段階移行する設計が前提になります。 **Q. 途中でメンバーが入れ替わる体制でも品質は保てますか。** A. 設計判断がドキュメントとコードに残っていれば保てます。この事例では参画時期の重なりが最大2〜3名、1ヶ月だけの参画者もいる体制で、前任の導入した層の上に後任が半年後の移行作業を積み上げています。 **Q. どのくらいの規模・期間の支援ですか。** A. 約11ヶ月、のべ4名(同時稼働は最大2〜3名)です。プロジェクトの規模や費用感の考え方は[システム開発とは](https://blog.xincere.jp/articles/what-is-system-development)で解説しています。 ### 関連する支援領域 - [システム刷新の進め方|検討・計画から移行までの方法](https://blog.xincere.jp/articles/core-system-renewal-guide) — 稼働中システムを止めずに刷新する判断基準 - [業務システム開発の要件定義とは?進め方・手順を7ステップで解説](https://blog.xincere.jp/articles/business-system-development-requirements-definition-steps) — 要件を仕様に落とす工程 - [システム開発の失敗から立て直す方法](https://blog.xincere.jp/articles/system-development-failure-patterns) — 体制・引き継ぎで詰まったときの選択肢 同じように「稼働を止められないプロダクトの基盤を作り替えたい」という課題をお持ちでしたら、[開発のご相談](https://blog.xincere.jp/contacts)からお問い合わせください。現状のコードとデータ構造を確認したうえで、段階移行の設計からご一緒します。

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著者について

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徐 聖博
株式会社シンシア 代表取締役社長

株式会社シンシア(Xincere, Inc.)代表取締役。中国生まれ・3歳から日本で育ち、日本語・中国語・英語を操るトリリンガル。大学院でコンピュータサイエンス(進化型ニューラルネットワーク)を研究し、GREE・メドレー・カウンティア・Indeed Japan などで検索エンジン開発やスタートアップの立ち上げ・グロースを経験。2020年に「人の価値をテクノロジーで最大化する」という想いでシンシアを創業した。エンジニア歴15年以上、代表でありながらほぼ毎日コードを書く現役エンジニアとして、基幹システム開発からAIエージェント活用まで顧客の事業成長に並走している。創業に込めた思いはnoteの創業ストーリーに綴っている。

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