「使われないシステム」はなぜ生まれるのか——要件定義の構造的課題を現場PM目線で読む

要件定義・業務整理公開日:2026年6月5日
高畑 拓海
高畑 拓海

株式会社シンシア 開発支援事業部 部長

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  1. 要点(記事の事実)
  2. 著者見解

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松本均さんの著書『要件定義の極意 「機能不全」「予算超過」「遅延」を防ぐ20のルール』(翔泳社)の内容をもとにしたCodeZineの記事を読み、普段の開発現場で感じていることと重なる部分が多かったため、PM・顧客折衝の経験を交えながら私の見解をお伝えしたいと思います。

要点(記事の事実)

  • 「機能不全」とは、技術的には正しく動作しているにもかかわらず、業務で実際に使われない状態を指す
  • 機能不全が生まれる源流として、「沈黙とすれ違い」「担い手の不足」「判断の複雑化」 という3つの構造的課題が整理されている
  • これらに対応する形で、業務フローを起点にする・現場の声を直接取り入れる・超具体的なユースケースに落とし込む・動くプロトタイプで具体化するなど、7つの実践ルールが提示されている
  • 画面がモダンで処理が正確でも、入力項目が多い・手戻りに対応できない・紙との二重入力が必要といった「小さな違和感の積み重ね」が誰も使わないシステムを生む
  • リリース直後から「裏運用」が生まれ、導入効果が曖昧になっていく典型的な末路が描かれている

著者見解

この記事で整理されている3つの構造的課題は、私が実務で担当してきた案件で繰り返し直面してきたものと一致しています。特に「担い手の不足」——業務と技術の橋渡しを担う人材が不在で、業務ニーズが正しく要件に落とし込まれない状態——は、規模の大小に関わらず起きやすい問題だと感じています。

現場目線で補足すると、「沈黙とすれ違い」が起きる背景には、単なるコミュニケーション不足ではなく、現場担当者が「自分の意見を言っても開発側には伝わらない」という諦めを持っている場合が少なくありません。ヒアリングの場で発言が少ないのは、意見がないからではなく、意見を出しても仕様に反映されないという過去の経験から来ていることがあります。この諦めを解消しないまま進めると、表面的な合意形成に終わり、リリース後に裏運用が生まれます。

一方で、「判断の複雑化」については、関係者を絞ること自体が難しい案件も多く、「誰が何を決めるか」を要件定義の早い段階で明文化しておくことが現実的な対策になると考えています。私自身の経験でも、意思決定者とその権限範囲を最初に整理しておかないと、後半になって方針が揺れてリリース直前に混乱するパターンを何度か見てきました。

いきなり7つのルールを全部実践しようとするより、まず「業務フローを起点にする」「現場の声を直接取り入れる」の2点から着手し、チームで継続できる形に落とし込むことが現実的だと思います。

出典: 「使われないシステム」はなぜ生まれるのか? 現場と開発のすれ違いを防ぐ、要件定義のメカニズム

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高畑 拓海株式会社シンシア 開発支援事業部 部長

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株式会社Atsumell様|サービスを止めずにデータ基盤を刷新したBPマッチングプラットフォームの開発事例

**約11ヶ月・のべ4名のリレーで、機能開発を止めることなく基盤の刷新を完了しました。** 参画時期の重なりは最大2〜3名で、メンバーは1ヶ月の短期集中から5ヶ月の継続稼働までさまざまです。それでも積み上げが効いたのは、**先に入ったメンバーが構造を残していたから**でした。2025年7月に導入された Repository 層の上で、半年後に別のメンバーが移行作業を進めています。認可条件はコード上の仕様コメントとして、スナップショット方式はアーキテクチャドキュメントとして残り、いずれも「引き継いだ人が読んで分かる」形になっています。 この期間に手掛けた業務機能は、協力会社のラベル分類機能、パートナー企業管理画面、CSV による一括招待とデータ出力、案件辞退フロー、ステータス変更通知メールなど多岐にわたります。基盤刷新と機能開発は、どちらかを止めて行ったものではありません。 > 大規模な基盤刷新は「一度止めて作り直す」以外にも方法があります。呼び出し側を壊さない層を挟み、テーブル単位で少しずつ移し、移行と改善を混ぜない。この3つを守れば、リリースを止めずに土台は入れ替えられます。事業を止められないプロダクトほど、この進め方の価値が出ます。 ### この事例からの示唆 **稼働中のサービスでも基盤は入れ替えられる。** 前提は、呼び出し側の契約(戻り値の形)を保つ中間層を挟むこと、移行単位をテーブルや画面まで小さく割ること、そして移行と機能改善を同じコミットに混ぜないことの3点です。この3つが崩れると、不具合が出たときに原因が移行なのか改善なのか切り分けられなくなり、結果として一度止めるしかなくなります。 **メンバーが入れ替わる前提の体制では、成果物より「残る構造」が価値になる。** 短期参画のエンジニアを増やしても積み上がらないプロジェクトは、設計判断が個人の記憶に閉じていることが原因であるケースが多いです。この事例では、認可条件をコード上の仕様コメントとして、データ設計をアーキテクチャドキュメントとして残す運用を徹底しました。開発体制の失敗パターンについては[システム開発の失敗から立て直す方法](https://blog.xincere.jp/articles/system-development-failure-patterns)でも整理しています。 **要件が固まりきらない領域ほど、データ設計で制約を表現する。** 「協力会社が人材情報を編集したら応募内容が変わってしまう」といった問題は、運用ルールやUIの注意書きでは再発します。スキーマとトリガーで表現すれば、アプリ側の実装漏れがあっても壊れません。要件を仕様に落とす工程そのものについては[要件定義の進め方](https://blog.xincere.jp/articles/requirements-definition-process)を参照してください。 ### よくある質問 **Q. 稼働中のサービスを止めずに基盤刷新はできますか。** A. できます。この事例では約11ヶ月にわたり、機能リリースを継続しながらデータアクセス基盤の移行と主キー変更まで実施しました。ただし「一斉に切り替える」やり方では現実的に困難で、呼び出し側を壊さない中間層を用意して段階移行する設計が前提になります。 **Q. 途中でメンバーが入れ替わる体制でも品質は保てますか。** A. 設計判断がドキュメントとコードに残っていれば保てます。この事例では参画時期の重なりが最大2〜3名、1ヶ月だけの参画者もいる体制で、前任の導入した層の上に後任が半年後の移行作業を積み上げています。 **Q. どのくらいの規模・期間の支援ですか。** A. 約11ヶ月、のべ4名(同時稼働は最大2〜3名)です。プロジェクトの規模や費用感の考え方は[システム開発とは](https://blog.xincere.jp/articles/what-is-system-development)で解説しています。 ### 関連する支援領域 - [システム刷新の進め方|検討・計画から移行までの方法](https://blog.xincere.jp/articles/core-system-renewal-guide) — 稼働中システムを止めずに刷新する判断基準 - [業務システム開発の要件定義とは?進め方・手順を7ステップで解説](https://blog.xincere.jp/articles/business-system-development-requirements-definition-steps) — 要件を仕様に落とす工程 - [システム開発の失敗から立て直す方法](https://blog.xincere.jp/articles/system-development-failure-patterns) — 体制・引き継ぎで詰まったときの選択肢 同じように「稼働を止められないプロダクトの基盤を作り替えたい」という課題をお持ちでしたら、[開発のご相談](https://blog.xincere.jp/contacts)からお問い合わせください。現状のコードとデータ構造を確認したうえで、段階移行の設計からご一緒します。

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著者について

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高畑 拓海
株式会社シンシア 開発支援事業部 部長

営業出身でエンジニアにキャリアチェンジ。要件定義・実装・PM・チームマネジメント・採用までを横断する。TypeScript / React / Next.js / NestJS / Hono / Ruby on Rails を主力に、現場目線・顧客折衝・チームの再現性・ジュニア育成を重視する。

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