「従業員の退職」で倒産が5年連続増——現場から見ると、賃上げの話と引き継げない話が混ざっている

DX・業務改善公開日:2026年8月7日
高畑 拓海
高畑 拓海

株式会社シンシア 開発支援事業部 部長

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  1. 要点 (出典の事実のみ)
  2. 共感できる点と、現場から見える別の層
  3. 建設業が初めて20件台になった意味
  4. 実務では、どこから手をつけるか
  5. 注意点として

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帝国データバンクの調査で、従業員の退職をきっかけとする倒産が5年連続で増加し、過去最多ペースで推移していることが報じられました。原因として挙げられているのは「価格転嫁ができず賃上げ原資を確保できない」ことです。ただ、私はこのニュースを賃金だけの話として読むと、現場で打てる手を見落とすと考えています。ここには賃上げの話と、引き継げない状態の話が混ざっています。

要点 (出典の事実のみ)

  • 2026年1〜7月の「従業員退職型」倒産は83件。前年同期の74件から12.2%増加し、5年連続の増加となった。
  • このペースで推移すれば、初めて年100件を超えた前年(124件)を大幅に上回り、単年で過去最多の更新が確実とされている。
  • 業種別ではサービス業が最多の22件(全体の26.5%)、建設業が20件で初めて20件台に到達、運輸・通信業が12件(前年同期8件)。
  • 背景として、足元のコストアップ分を価格に転嫁できないことで賃上げ原資を確保できず、事業の中核を担うキーマンの流出を止められないケースが指摘されている。

共感できる点と、現場から見える別の層

まず、賃上げ原資の問題は現実だと思います。価格転嫁ができなければ処遇は上げられず、処遇が上げられなければ中核人材は残らない。この因果は素直に理解できます。

一方で、実務で考えると引っかかるのは「キーマンの流出を止められない」という表現のほうです。人が辞めること自体は、どれだけ処遇を整えても一定の確率で起きます。転職も独立も家庭の事情もある。問題は辞めたことではなく、辞めた瞬間に事業が止まる構造のほうにあります。 倒産という結果に直結しているのは後者だと、私は見ています。

これは私が普段向き合っている領域と地続きです。私はこれまで、仕様書がほとんど残っていない既存システムをコードから読み解いて引き継いだり、遅延した案件を立て直したりする仕事を担当してきました。そういう案件に入るたびに感じるのは、「あの人しか分からない」は事故ではなく、日々の小さな選択の積み重ねで出来上がるということです。仕様を口頭で決めた、ドキュメントを書く時間が工数に入っていなかった、レビューを1人に任せ続けた。ひとつひとつは小さな判断で、そのときは合理的ですらあります。

建設業が初めて20件台になった意味

業種別で目を引いたのは、建設業が初めて20件台に到達したことです。詳しい業界事情まで踏み込む立場にはありませんが、少なくとも有資格者や現場を仕切れる人がいないと案件そのものが成立しない仕事という点は、開発の現場と構造が似ていると感じます。

私たちの業界でも、特定の1人が抜けると案件が止まる状態は珍しくありません。設計の経緯を知っている人、顧客との合意の背景を知っている人、本番環境に触れる権限を持っている人。この3つが同じ1人に集中している現場を、私は何度か見てきました。処遇の話とは別に、その集中を放置していること自体がリスクです。

実務では、どこから手をつけるか

いきなり完璧な体制を目指すと、たいてい形骸化します。私が現実的だと考えるのは次の順序です。

1. 「誰が抜けたら止まるか」を人単位ではなく工程単位で洗い出す。 「Aさんが重要」では対策が打てません。「本番リリースの手順を知っているのがAさんだけ」「この顧客の意思決定の癖を知っているのがAさんだけ」まで分解すると、初めて手が打てる粒度になります。業務の棚卸しと考え方は同じです。

2. ドキュメントを書く時間を、最初から工数に入れる。 「余裕ができたら書く」は永久に来ません。開発ガイドラインやAPI仕様書の整備は、私自身が担当してきて効果を実感している部分ですが、工数として見積もりに入っていない限り必ず後回しになります。 ここは気合いではなく見積もりの問題です。

3. レビューを「品質チェック」ではなく「引き継ぎ手段」として設計する。 コードレビューの目的は品質担保だと語られがちですが、運用面ではもう一つ効果があります。レビュアーは強制的に2人目の理解者になる。 属人化を解くのに新しい制度を作らなくても、既にある仕組みの目的を1つ足すだけで効く場合があります。

4. 育成を「余力があるときの活動」にしない。 中核人材が抜けたときに代わりがいない状態は、採用だけでは埋まりません。リスキリングの責任が企業側に移っているという話とも重なりますが、現場社員が手を動かして学ぶ形の育成のほうが、結果的に層は厚くなると考えています。私自身が営業からエンジニアに移った身なので、未経験からでも実務で伸びることは実感しています。

より体系的な手順は属人化した業務を解消する手順にまとめています。

注意点として

一つ補足しておくと、属人化の解消は「全部ドキュメント化する」ことではありません。書きすぎたドキュメントは更新されず、更新されないドキュメントは読まれず、読まれないドキュメントは無いのと同じです。 私は完璧主義になりがちな自覚があるので、ここは意識的に線を引くようにしています。残すべきは、判断の経緯(なぜそう決めたか)と、手順(誰でも同じ結果になる操作)です。コードを読めば分かることを日本語に写す作業に時間を使っても、運用には乗りません。

また、経営全体として賃上げ原資をどう作るかは、私の立場から断定的に語れる領域ではありません。価格転嫁も資金繰りも専門の判断が必要です。ただ、「引き継げる状態を作る」ほうは、原資が無くても今日から着手できるという点は言えます。そして着手が早いほど、いざ人が抜けたときの被害は小さくなります。そもそもその開発が必要かを問い直す視点も含めて、課題の定義から入ることが結局は近道だと感じています。

出典: 従業員「退職」で倒産、5年連続で増加 過去最多ペースで推移 「賃上げできず」倒産も発生 (帝国データバンク / Yahoo!ニュース、2026年8月7日)

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高畑 拓海
株式会社シンシア 開発支援事業部 部長

営業出身でエンジニアにキャリアチェンジ。要件定義・実装・PM・チームマネジメント・採用までを横断する。TypeScript / React / Next.js / NestJS / Hono / Ruby on Rails を主力に、現場目線・顧客折衝・チームの再現性・ジュニア育成を重視する。

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