Access/VBAのレガシー移行をAIエージェントで37%削減——Odyssey Logisticsの事例は「レビュー体制」で読む

業務システム・基幹システム開発公開日:2026年9月24日
徐 聖博
徐 聖博

株式会社シンシア 代表取締役社長

Share
目次開く
  1. 要点(事実のみ)
  2. 徐 聖博の見解
  3. 「5〜6倍」ではなく「約3分の1」だったことに意味がある
  4. ボトルネックはレビューする人の数に移る
  5. 開発会社の事業判断にどう効くか
  6. Access/VBAの業務ロジックはどこから移すべきか
  7. あわせて読みたい

米Odyssey Logisticsが、Microsoft Access/VBAに残っていた業務ロジックを、AIソフトウェアエンジニア「Devin」と7人のチームでクラウドネイティブに作り直し、本番稼働させました。従来方式と比べて純コスト37%削減という数字が目を引きますが、受託開発とAIエージェント事業の両方をやっている立場から見ると、この事例の核心は削減率ではなく「全変更を人間の技術責任者がレビューして署名する」という体制の設計にあります。この記事では、レガシーシステムの移行にAIエージェントを使うとき、開発会社の事業判断として何が変わるのかを整理します。

要点(事実のみ)

  • Cognizant と Cognition は2026年9月23日、Odyssey Logistics で自律型AIエンジニアリングを本番運用に乗せたと発表した。
  • 対象は、受注入力と出荷ライフサイクルのワークフローロジックを抱えた Microsoft Access / VBA のフォーム群。これを OdysseyONE プラットフォーム上のクラウドネイティブなアプリケーションとして再構築した。
  • 7人の Cognizant チームが Devin を使ってレガシー変換を担い、コードと並行してテスト、デプロイパイプライン、ドキュメントも生成した。
  • 結果は従来方式比で純コスト37%削減、開発スループットは約3分の1向上。発表文は「固定予算と厳しい納期が、従来型の書き直しを選択肢から外した」と説明している。
  • すべての変更は、マージ前に Cognizant の技術リードまたはアーキテクトがレビューし承認した。先行した別プロジェクトはキックオフから21日でクローズし、その結果を受けて輸送管理プラットフォームへ同じモデルを適用した。

徐 聖博の見解

「5〜6倍」ではなく「約3分の1」だったことに意味がある

私が最初に引っかかったのは、同じリリースの中にある2つの数字の差です。Cognizant社内の取り組みでは、Devinで新規開発(グリーンフィールド)が5〜6倍に加速したと書かれています。一方、Odysseyのレガシー刷新ではスループット向上は約3分の1にとどまります。

私はこの差を、AIが弱いからではなく、レガシー移行という仕事の中身が「書くこと」ではなく「今の挙動を理解し、同じであることを確かめること」に偏っているからだと読んでいます。Access/VBAのシステムは、仕様書が無く、業務ルールがフォームのイベントやクエリに埋め込まれていることが多い。コードの生成が速くなっても、「この画面のこのボタンは、どの条件で何を更新していたのか」を確定させる作業は残ります。この事例で、テストをコードと同時に生成させている点は、その確認作業をAI側に寄せる工夫だと考えます。

ボトルネックはレビューする人の数に移る

全変更に技術リードかアーキテクトの署名が必要、という体制にした時点で、プロジェクトの速度の上限は「AIが書ける量」ではなく「責任を持ってレビューできる人の処理量」で決まります。私たちも開発でコードレビューを人とAIで併用していますが、実感として、AIが出す差分が増えるほどレビュー側の集中力が先に尽きます。7人という小さなチームで成果が出ているのは、人数を絞ったからではなく、レビューで判断できる人を中心に構成したからだと私は推測しています(チーム構成の内訳はリリースに書かれていません)。

Odyssey側のCIOが「重要な判断は人間が握る」と語っているのも、ここと整合します。AIに丸投げしたのではなく、説明責任の所在を先に決めたうえでAIを入れた。順番が逆ではない点が、本番稼働まで行けた理由だと思います。

開発会社の事業判断にどう効くか

SIerや開発会社の経営側から見ると、この事例は技術の話より先に、値付けと体制の話です。

  • 人月の請求モデルとは相性が悪い。 37%削減がそのまま工数削減なら、人月で請求している会社は売上が減ります。この事例が「固定予算」の案件で成立していることは象徴的で、成果物単位・固定価格で受ける会社ほどAIの効率化が利益に残ります。
  • 必要な人材の比率が変わる。 手を動かす人より、既存業務の挙動を読み解き、差分の正しさを判定できる人の比重が上がります。一方で、若手がレガシーコードを読みながら業務を覚える、という従来の育成経路は細ります。育成をどう設計し直すかは、採用人事に関わってきた私から見て、効率化以上に重い論点です。
  • 見積もりの前提を開示できるかが競争力になる。 リリースは「従来方式比37%」としていますが、比較対象の見積もり前提は読み取れません。発注側がこうした数字を見て相見積もりを取るようになると、「何と比べて何%なのか」を説明できる会社が選ばれるはずです。

Access/VBAの業務ロジックはどこから移すべきか

私が同じ案件を受けるとしたら、最初にやるのはコード変換ではなく、現行システムの挙動を固定するテストを作ることです。入力と出力の組を実データから集め、「新システムでも同じ結果になる」ことを機械的に確かめられる状態を先に作る。そのうえで、変換はAIに任せ、差分の妥当性判断は人が持つ。Odysseyの事例も、先行の小さなプロジェクトを21日で閉じてから本丸に進んでいます。いきなり全体を移さず、小さく回して体制の妥当性を確かめる順番は、規模にかかわらず真似できる部分です。

レガシー刷新は、以前は「数年がかりの大工事」か「触らずに延命」の二択になりがちでした。AIエージェントは第三の選択肢を現実的にしましたが、それを成り立たせるのは道具ではなくレビュー体制と契約形態だ、というのが私の結論です。

あわせて読みたい

出典: Cognizant and Cognition put autonomous AI engineering into production at Odyssey Logistics, with a 37 percent net cost saving (PR Newswire, 2026-09-23)

Share

そのまま使えるチェックリスト

既存システムを残したまま進めるときの確認項目

全面刷新を前提にしない場合、先に決めるのは機能ではなくデータの持ち方です。

  • どのシステムのデータを「正」とするか
  • 同期が失敗したとき、どう復旧するか
  • 連携方式の制約(API/CSV/DB直/手作業)
  • 既存システムのベンダーに仕様を聞けるか
  • 止められない処理と、その締め時間
  • 過去データをどこまで移行するか
  • 例外処理の一覧(標準フローから外れる条件)
この続きをPDFで持ち帰る →

PDF版には要件定義ヒアリングシート全項目(目的・業務・データ・非機能・体制)を収録しています。

徐 聖博のプロフィール写真

この記事の書き手に直接相談する

徐 聖博株式会社シンシア 代表取締役社長

記事の内容について、より具体的に自社のケースで聞きたいことがあれば、徐 聖博を指名してご相談いただけます。営業担当ではなく、 実際に手を動かしている本人が回答します。

シンシアの開発事例

株式会社Atsumell様|サービスを止めずにデータ基盤を刷新したBPマッチングプラットフォームの開発事例

約11ヶ月・のべ4名のリレーで、機能開発を止めることなく基盤の刷新を完了しました。 参画時期の重なりは最大2〜3名で、メンバーは1ヶ月の短期集中から5ヶ月の継続稼働までさまざまです。それでも積み上げが効いたのは、先に入ったメンバーが構造を残していたからでした。2025年7月に導入された Repository 層の上で、半年後に別のメンバーが移行作業を進めています。認可条件はコード上の仕様コメントとして、スナップショット方式はアーキテクチャドキュメントとして残り、いずれも「引き継いだ人が読んで分かる」形になっています。 この期間に手掛けた業務機能は、協力会社のラベル分類機能、パートナー企業管理画面、CSV による一括招待とデータ出力、案件辞退フロー、ステータス変更通知メールなど多岐にわたります。基盤刷新と機能開発は、どちらかを止めて行ったものではありません。 大規模な基盤刷新は「一度止めて作り直す」以外にも方法があります。呼び出し側を壊さない層を挟み、テーブル単位で少しずつ移し、移行と改善を混ぜない。この3つを守れば、リリースを止めずに土台は入れ替えられます。事業を止められないプロダクトほど、この進め方の価値が出ます。 この事例からの示唆 稼働中のサービスでも基盤は入れ替えられる。 前提は、呼び出し側の契約(戻り値の形)を保つ中間層を挟むこと、移行単位をテーブルや画面まで小さく割ること、そして移行と機能改善を同じコミットに混ぜないことの3点です。この3つが崩れると、不具合が出たときに原因が移行なのか改善なのか切り分けられなくなり、結果として一度止めるしかなくなります。 メンバーが入れ替わる前提の体制では、成果物より「残る構造」が価値になる。 短期参画のエンジニアを増やしても積み上がらないプロジェクトは、設計判断が個人の記憶に閉じていることが原因であるケースが多いです。この事例では、認可条件をコード上の仕様コメントとして、データ設計をアーキテクチャドキュメントとして残す運用を徹底しました。開発体制の失敗パターンについてはシステム開発の失敗から立て直す方法でも整理しています。 要件が固まりきらない領域ほど、データ設計で制約を表現する。 「協力会社が人材情報を編集したら応募内容が変わってしまう」といった問題は、運用ルールやUIの注意書きでは再発します。スキーマとトリガーで表現すれば、アプリ側の実装漏れがあっても壊れません。要件を仕様に落とす工程そのものについては要件定義の進め方を参照してください。 よくある質問 Q. 稼働中のサービスを止めずに基盤刷新はできますか。 A. できます。この事例では約11ヶ月にわたり、機能リリースを継続しながらデータアクセス基盤の移行と主キー変更まで実施しました。ただし「一斉に切り替える」やり方では現実的に困難で、呼び出し側を壊さない中間層を用意して段階移行する設計が前提になります。 Q. 途中でメンバーが入れ替わる体制でも品質は保てますか。 A. 設計判断がドキュメントとコードに残っていれば保てます。この事例では参画時期の重なりが最大2〜3名、1ヶ月だけの参画者もいる体制で、前任の導入した層の上に後任が半年後の移行作業を積み上げています。 Q. どのくらいの規模・期間の支援ですか。 A. 約11ヶ月、のべ4名(同時稼働は最大2〜3名)です。プロジェクトの規模や費用感の考え方はシステム開発とはで解説しています。 関連する支援領域 システム刷新の進め方|検討・計画から移行までの方法 — 稼働中システムを止めずに刷新する判断基準 業務システム開発の要件定義とは?進め方・手順を7ステップで解説 — 要件を仕様に落とす工程 システム開発の失敗から立て直す方法 — 体制・引き継ぎで詰まったときの選択肢 同じように「稼働を止められないプロダクトの基盤を作り替えたい」という課題をお持ちでしたら、開発のご相談からお問い合わせください。現状のコードとデータ構造を確認したうえで、段階移行の設計からご一緒します。

株式会社Atsumellの事例を読む →

この記事が役に立ったら、Google で優先表示を

Google 検索の「優先するソース」に blog.xincere.jp を追加すると、シンシアの新着記事がトップニュースなどで見つけやすくなります。

Google で優先ソースに追加

著者について

徐 聖博のプロフィール写真
徐 聖博
株式会社シンシア 代表取締役社長

株式会社シンシア(Xincere, Inc.)代表取締役。中国生まれ・3歳から日本で育ち、日本語・中国語・英語を操るトリリンガル。大学院でコンピュータサイエンス(進化型ニューラルネットワーク)を研究し、GREE・メドレー・カウンティア・Indeed Japan などで検索エンジン開発やスタートアップの立ち上げ・グロースを経験。2020年に「人の価値をテクノロジーで最大化する」という想いでシンシアを創業した。エンジニア歴15年以上、代表でありながらほぼ毎日コードを書く現役エンジニアとして、基幹システム開発からAIエージェント活用まで顧客の事業成長に並走している。創業に込めた思いはnoteの創業ストーリーに綴っている。

人気記事

    お問い合わせ

    システム開発やAI推進についてのご相談はこちらから

    無料相談を予約する