日機装のkintone活用に学ぶ製造業DXの順番|ERPを残し「業務接続→データ統合→AI」で受注1.5倍

DX・業務改善公開日:2026年9月17日最終更新日:2026年9月20日
徐 聖博
徐 聖博

株式会社シンシア 代表取締役社長

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  1. 要点 (出典の事実のみ)
  2. ERPを刷新せずにkintoneで部門をつなぐ構成は何が良いのか
  3. なぜ「AIが先」ではなく「業務接続とデータ統合が先」なのか
  4. 開発会社・SIerが事業判断として読むべき点
  5. 関連記事

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機械メーカーの日機装が、ノーコード基盤のkintoneで部門間の情報分断を解消し、受注約1.5倍・年間2万3467時間の業務削減を実現した事例が MONOist に掲載されました (サイボウズ主催セミナーの講演をまとめたPR記事です)。本稿では事実を整理したうえで、受託開発とAIエージェント事業を営む立場から、製造業DXで「AI導入→データ整備」ではなく「業務接続→データ統合→AI」の順番が効く理由と、開発会社・SIerが提案で押さえるべき論点を述べます。

要点 (出典の事実のみ)

  • 日機装の精密機器事業は顧客ごとの要求に応える「一品一葉」のモノづくり。情報共有はExcelやメールにとどまり、営業のニーズが技術部門や工場に十分伝わらず、失注や納期対応の問題が起きていた。
  • 旗振り役はIT専任者ではなく、エンジニア出身で当時工場長だった森隆博氏。「小さく始め、スピーディーに進める」方針でkintoneを採用し、3フェーズ(限定部署のワークフロー化 → 基幹システムと連携した全社業務の入り口 → 蓄積データを活用したビジネス創出)を描いた。
  • 第2フェーズで営業・技術・調達・製造・品質管理・サービスの情報をkintoneに集約し、事業部全体の約200人が利用。ERPのAS/400(IBM i)とデータ連携ツールでつなぎ、既存ERPを置き換えずに受注前から調達・製造・検査・サービスまでを受注情報でひも付けた。
  • 成果は受注約1.5倍、年間2万3467時間の業務時間削減。
  • 第3フェーズとしてAIで案件履歴・日報などを分析。森氏は状況把握のための報告会やミーティングが「感覚的には4分の1ほど」になったと述べている。

ERPを刷新せずにkintoneで部門をつなぐ構成は何が良いのか

私がこの事例で最も重要だと考えるのは、ERPの全面刷新を選ばなかったことです。AS/400が持つのはモノとカネの情報で、そこは安定して動いています。欠けていたのは、受注前の営業情報や、着荷時の「箱が潰れていた」という写真のような、ERPのマスタに乗らない部門間の情報でした。この隙間を、ERPの外側に業務レイヤーとして置いたkintoneで埋め、受注情報をキーにERPと結んでいます。

受託の現場で見る限り、製造業の基幹刷新は、要件定義だけで長期化しやすい領域です。日機装が「全員が満足するシステムを最初から作ろうとすれば、要件定義に時間がかかる」と判断して周辺から着手したのは、改修範囲とリスクを絞る合理的な選択だと私は評価します。一方で、この構成には条件があります。連携キー(受注番号など)が全部門で一意に扱えることと、ERPとkintoneのどちらが正のデータかを項目ごとに決めておくことです。ここを曖昧にすると、つないだ結果として二重管理が増えます。記事にはこの設計の詳細は書かれていないため、同じ構成を検討する場合は最初に確認すべき論点です。

なぜ「AIが先」ではなく「業務接続とデータ統合が先」なのか

日機装のAI活用は、日報や案件履歴からのリスク抽出・要約・対策レポートの生成です。これは、日報も活動履歴も毎日kintoneに入力され続けているから成立しています。紙やExcelの業務をワークフローに移し「日常業務で使わざるを得ない状態」を作ったことが、結果としてAIの入力データを生んでいます。

私はAIエージェントを作る側として、PoCが本番に乗らない理由の多くはモデル性能ではなく、業務の中で継続的にデータが発生する経路が無いことだと見ています。一度きりのデータ移行でAIを動かしても、翌月には鮮度が落ちます。先に業務をつなぎ、データが毎日たまる状態を作ってからAIを載せる。この順番の効果が、受注と工数という業務側の数字で示された点に価値があります。なお、受注1.5倍はAI導入前の第1〜2フェーズの成果として語られており、AI単体の効果として読むべきではありません。

開発会社・SIerが事業判断として読むべき点

同業の経営・事業責任者にとっての含意は2つあると考えます。

  1. 「基幹刷新の大型案件」だけが製造業DXの入口ではない。 日機装の旗振り役は現場のエンジニアで、ノーコードで自ら構築しています。ベンダーの価値は画面を作ることより、ERP連携の設計、正データの定義、フェーズ設計、AIを載せる段階での評価設計に移ります。提案をこの領域に寄せないと、ノーコードとの価格比較で負けます。
  2. 成果指標を業務側の数字で置く。 日機装は受注と業務時間で成果を語っています。発注側に「何を導入するか」ではなく「どの部門間の伝言ゲームを消すか」から要件を引き出せるかが、提案の差になります。

ただし、本件はサイボウズ主催セミナーのPR記事で、削減時間の算出方法や導入費用・期間は示されていません。数字をそのまま自社の見積根拠に流用せず、「順番」と「構成」を学ぶ事例として扱うのが妥当です。

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出典: 部門間の情報分断を打破し受注1.5倍と2万時間削減、ノーコードで挑むAI価値創出(MONOist)

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シンシアの開発事例

株式会社Cloverse様|アパレル向けAIクリエイティブ基盤「Clovia Enterprise」を4名体制で開発支援

2026年2月の開発着手から約5.5ヶ月で、アパレル企業向けAIクリエイティブ基盤としてプレスリリース公開まで到達しました(2026年7月29日発表)。 Cloverse様の発表によれば、Clovia Enterprise は PUMA社・ルック社をはじめとする30社以上のアパレルブランドとの検証を経ており、現在は先行導入企業(Founding Partner)を限定募集する段階に入っています。 開発規模は次のとおりです(2026年7月29日時点、リポジトリ実測値)。 指標 / 実績 開発体制 / エンジニア4名 開発期間 / 2026年2月13日〜(継続中) コミット数 / 約1,480 プルリクエスト / 373本 対応イシュー / 428件 実装計画ドキュメント / 162本 データモデル / 83テーブル この事例からの示唆 生成AIプロダクトの難所は、モデルではなく業務側にある。 画像を1枚生成すること自体は、いまや誰でもできます。事業として成立させるために必要だったのは、マスター管理・制作進行・レビュー・権限・課金・非同期処理といった、業務を回すための地味な設計でした。83テーブルという規模は、その事実を素直に表しています。 未知の業界のプロダクトは、業務を理解した側が設計しないと形にならない。 アパレルEC制作の工程を知らないまま「AIで画像生成する機能」を作っても、現場では使われません。ヒアリング・R&D・プロトタイプ・提案までを開発チームが担ったのは、そうしないと仕様が決まらない領域だったからです。この構造は「使われないシステム」が生まれる要件定義の失敗とちょうど裏返しの関係にあります。 モデル選定に正解が無い領域では、検証を設計プロセスに組み込む。 どの生成モデルを使うかは半年で変わります。だからこそ、モデルを差し替えられる構造と、検証結果を機能設計に反映し続ける進め方の両方が必要でした。 よくある質問 Q. 生成AIを使ったプロダクトの開発は、通常のシステム開発と何が違いますか。 A. 最も違うのは、着手時点で仕様が確定できない点です。どのモデルがどの品質を出せるかは検証しないと分からないため、R&Dとプロトタイプを設計工程に組み込む必要があります。一方で、組織・権限・課金・非同期処理といった土台は通常のSaaS開発と同じ設計が求められます。 Q. 業界知識がない領域でも開発支援を依頼できますか。 A. できます。この事例ではアパレルEC制作の業務理解から入り、ヒアリングとプロトタイプを通じて要件そのものを一緒に作りました。仕様が固まっていない段階からのご相談のほうが、むしろ手戻りが少なくなります。 Q. どのくらいの体制・期間の支援ですか。 A. エンジニア4名、2026年2月から継続中です。プレスリリース公開までは約5.5ヶ月でした。規模や費用感の考え方はシステム開発とはで解説しています。 関連する支援領域 AIシステム開発とは?開発の流れ・費用相場・失敗しない進め方 — 生成AIプロダクト開発の全体像 AI PoCの進め方5ステップ|「PoC止まり」を防ぎ本番導入につなげる実践手順 — 検証を本番に接続する設計 FDE(Forward Deployed Engineer)が示す、上流から伴走できるエンジニアの価値 — 本事例の進め方の背景 生成AIを使った新規プロダクトの立ち上げや、仕様が固まりきっていない段階からの開発支援については、開発のご相談からお問い合わせください。 出典: アパレル企業向けAIクリエイティブ基盤「Clovia Enterprise」提供開始(株式会社Cloverse / PR TIMES, 2026-07-29)

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著者について

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徐 聖博
株式会社シンシア 代表取締役社長

株式会社シンシア(Xincere, Inc.)代表取締役。中国生まれ・3歳から日本で育ち、日本語・中国語・英語を操るトリリンガル。大学院でコンピュータサイエンス(進化型ニューラルネットワーク)を研究し、GREE・メドレー・カウンティア・Indeed Japan などで検索エンジン開発やスタートアップの立ち上げ・グロースを経験。2020年に「人の価値をテクノロジーで最大化する」という想いでシンシアを創業した。エンジニア歴15年以上、代表でありながらほぼ毎日コードを書く現役エンジニアとして、基幹システム開発からAIエージェント活用まで顧客の事業成長に並走している。創業に込めた思いはnoteの創業ストーリーに綴っている。

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